6月のコンフェデレーションズカップ以来、守備に課題を残す試合が続いていた日本代表が、グアテマラに3−0、ガーナに3−1と連勝した。ガーナ戦でパスミスから1点を失ったものの、2試合を通じて守備は概(おおむ)ね安定していたと言っていいだろう。キャプテンの長谷部誠は語る。

「トップ(レベルの)チームとの4試合(コンフェデの3試合とウルグアイ戦)が意味あるものになった。(4試合での課題だった)前線からの守備はだいぶ変わった。(攻守の)切り替えは速かったし、パスコースをきっちり切ってくれた」

 ザッケローニ監督も「前線が守備のタスクをこなしてくれたことで、チーム全体がコンパクトに保てた。ダブルボランチはいつもより少し楽ができたのではないか」と話していたが、当のボランチ、長谷部の実感は、まさにその通りだったわけだ。

 DF今野泰幸の言葉を借りれば、「(変わったというより)元に戻ったという感じ」。この2試合は、よかったときの守備のバランスをようやく取り戻したというところだろう。

 さて、DFラインを高く保ち、コンパクトな守備隊形で前線からプレッシャーをかけるという積極的なディフェンスを取り戻すと同時に、この2試合で目を引いたのは「3−4−3」の活用である。

 いずれも15分程度という短い時間ながら、2試合続けて終盤に「4−2−3−1」から「3−4−3」へとシフト。DF吉田麻也は、「実戦のなかでもっとやっていかないといけない。頭のなかでは分かっていても、相手が違えばやり方も変わるので、引き続きやっていくことが必要」だと話していたが、これまでは実質5バックになってしまうことが多く、ほとんど使い物にならなかった。そのことを考えれば、この2試合での「3−4−3」は、比較的バランスよく機能していた。

 今回は国際Aマッチが2試合あり、活動日数も9日間と長かったこともあって、ザッケローニ監督が「この合宿のトレーニングではずっとやってきた」と話す「3−4−3」。集中的にトレーニングしてきたことが、ようやく実を結び始めてきたかにも見える。

 とはいえ、言い換えれば、勝っている試合の、しかも残り15分程度の時間だけうまくいっただけ。「3−4−3」を使えるメドが立ったと考えるのは短絡的すぎる。それどころか、これだけ時間をかけてもこの程度にしか使えないシステムに、ザッケローニ監督はいつまでこだわり続けるのか。そんなふうにさえ考えることもできる。事実、今野は「(3−4−3がバランスよく機能していたように見えたのは)マイボールの時間が長かったから」と手厳しかった。

 だが、指揮官が今回の一連のトレーニングで「3−4−3をずっとやってきた」のには、別の理由もあったのではないだろうか。

 ヒントになるのは、DF伊野波雅彦が口にした次の言葉だ。

「3バックをやるための3バック(のトレーニング)とは限らない、という感覚はある」

 伊野波は、グアテマラ戦翌日に「3−4−3」で行なわれた練習試合の後、「3バックは(相手がサイドチェンジしたときの)スライドを速くしなければならないので、すごくキツい」と苦笑いを浮かべ、こう話していた。

「3バックをやることでスライドが速くなるし、それをやっていれば4バックのときにもっと速くできる。4バックのための3バック(での練習)という部分はあると思う」

 DF内田篤人もまた、「(3バックの)サイドはキツいけど、それに慣れてくればいい」と言い、こう語る。

「(4−2−3−1と3−4−3では)スタート位置が違うだけで、動き自体はそんなに変わらない。(3−4−3が)体にしみついてくれば、動きもスムーズになる」

「3−4−3」の場合、「4−2−3−1」と比べると中盤から前の枚数が増える分、高い位置からボールを奪いにいく意識はより強く求められる。だが、その一方で最終ラインが1枚少なくなる分、ひとりあたりがカバーする横幅は広くなり、速いスライドが求められる。

 つまり、日本代表に失われていた守備の意識、すなわち高い位置から強くボールを奪いに行き、奪い切れずにサイドチェンジされたとしても左右のスライドを速くすることですばやく対応する。そうしたことをあらためて思い出させ、徹底させるためには、「3−4−3」のトレーニングがより効果的だったと考えられる。

 実際、グアテマラ戦とガーナ戦で見られた守備面の改善具合を考えれば、その効果はてきめんだった。長谷部は言う。

「大事なのは継続。この2試合でできたことを(10月のヨーロッパ遠征の)アウェーの地でも出せるようにしたい」

 今回の9日間に及ぶ合宿で、ザッケローニ監督が「3−4−3」にこだわった理由。それはシステムうんぬんの話ではなく、自らが目指すサッカーの大原則を、自信を失いかけている選手たちにあらためて思い出させることにあったのだと思う。

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki