この2試合(グアテマラ戦、ガーナ戦)の起用法を見る限り、ザッケローニ監督は、大迫勇也よりも柿谷曜一朗を1トップのファーストチョイスとして考えているようだ。

 大迫にもう少し時間を与えてもよかったと思える一方で、指揮官の思惑どおり、試合を追うごとに、柿谷がチームにフィットしてきているのは間違いない。ポストに入った柿谷がワンタッチでさばいて2列目の3人――本田圭佑、香川真司、清武弘嗣を活かそうとする場面が何度も見られ、2列目の選手たちも、DFの視野から外れるように大外に回り込む柿谷の動きを見逃さなかった。柿谷が言う。

「ファー(サイド)に回り込むのは監督からも話があったし、僕がディフェンスラインを引っ張れば、バイタル(エリア)が空きますからね。それに、あの3人はダイレクトが一番活かせると思う。多少難しくても、ダイレクトで正確に(ボールを)落とすことを意識しています」

 これまでのザックジャパンは、岡崎慎司が不在になると、途端に裏への選択肢がなくなってしまう傾向が強かった。だが、相手のディフェンスラインと駆け引きし、裏を狙える柿谷が1トップに入ったことで、そうした懸念も解消された。

「(柿谷)曜一朗は足もとと裏、両方いける。活かし切れれば、遅攻と速攻を使い分けられるようになる」と今野泰幸が言えば、長友佑都も、「あいつはタメを作れるし、パスも出せる。何でもできるから、相手も的を絞りにくくなる。攻撃のバリエーションは増したと思いますね」と語った。

 柿谷がチームの力になったのは、攻撃面だけではない。守備面での貢献度も、決して低くなかった。

 相手のセンターバックに対し、正面からではなく、横からプレッシャーを掛けて横パスを出させ、サイドで奪い取るための第1ディフェンスの役目を果たすと、自陣まで戻って相手の攻撃を遅らせた21分の場面のように、プレスバックの意識も高かった。

 これについて柿谷は、「危ないときは、とりあえず戻っている感じですね。チャンスがあれば決める自信はありますけど、たとえ攻撃ができなくても、守備で貢献できればチームは負けない。そこは徹底してやるのが大事かなって思っています」と振り返った。

 もっとも、ディフェンスに意欲的に取り組んでいたのは、柿谷だけではない。

 清武がものすごい勢いで相手の左サイドバックをタッチライン際へと追い込めば、本田も自陣深くまでプレスバックし、香川も長友のサポートに何度も回った。

 これまでの課題で最も修正されたものは何か――との質問に、長谷部誠は、「前線からの守備の部分。前線からの守備意識は間違いなく変わった。ボールを取られたあとの切り替えが早くなったし、パスコースも限定してくれている」と答えたが、その言葉はたしかにうなずけるものだった。

 もちろん、守備面に関して課題がなくなったわけではない。例えば、カウンターを浴びたとき、帰陣に遅れ、足を止めてしまう選手がいた点だ。

 先制点を許した場面では、猛スピードで自陣に戻る長谷部や今野に対し、遠藤保仁はスピードを緩め、人とスペースのどちらもケアすることができなかった。左ボランチの遠藤がゴール前に戻れば、右ボランチの長谷部はゴールを決めたアチェアンポングのケアに行けたのではないか。

 また、左サイドを崩された44分の場面でも、マークすべき右サイドハーフのアドマーが中央へ走り込んでいるのに、長友は足を止めてしまった。長友よりも敵陣にいた長谷部が懸命に戻り、この選手へのパスをカットして事なきを得ている。

 これは、リスクマネジメントの問題ではなく、選手個人の危機察知力――マークの責任感の問題だろう。

 思い出すのは今年5月、バイエルンとドルトムントの間で争われたチャンピオンズリーグの決勝だ。バイエルンの先制ゴールの場面では、GKノイアーのリフティングからのクリアや、リベリの股抜きのスルーパスが印象的だが、攻撃の起点となったのは、バイエルンの徹底された守備意識だった。

 中央突破を図ったドルトムントのギュンドアンに対し、前線にいたハビ・マルティネスが猛烈な勢いでプレスバックしてボールを奪い返したのだ。このとき、ゴール前にはバイエルンの選手が5人もいて、ドルトムントの選手はふたりしかいなかったにもかかわらず......。この守備意識の高さと責任感に、シーズン18失点しか喫しなかった堅守の理由が見えたものだった。

 おそらく遠藤も、長友も、自分たちの「サボり」に気づいたに違いない。

 失点の直後、速攻を許し、右サイドからクロスを入れられた27分の場面で、懸命に戻って身体を投げ出してクリアしたのは、遠藤だった。67分、左サイドの深い位置まで戻ってオパレの突破を阻んだのも、遠藤だった。また後半、攻撃参加の回数を増やした長友も、同じくらいの勢いで自陣に戻る姿が目に付いた。

 ヨーロッパがシーズンインして欧州組のコンディションが整ったことに加え、8日間にわたる合宿で約束事を改めて確認したことで取り戻した守備での自信――。3点を奪った攻撃面もさることながら、ザックジャパンにとって生命線だった、前線からの効果的かつ効率的なプレッシングが戻ってきたという点に、この試合の価値はある。

飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi