コンフェデ杯後の騒ぎはいったい何だったのか。このままではマズイとの危機感はもはやどこにも見られない。結局、大騒ぎしたわりに顔ぶれに変化は起きなかった。大山鳴動してネズミ一匹ならぬ、柿谷曜一朗ひとり。大きかったはずの話は、尻すぼみに終わった。

 ひと夏越せば、人間には何がしかの変化が起きるものだ。2学期初日、登校してみるとクラスの仲間のいろいろな変化に驚いた記憶がある。急に大人っぽくなった子、魅力的になった子、学力を伸ばした子、等々、9月初頭というこの時期は本来、そうした眩しい変化が目に飛び込んでくる季節だ。

 団体競技ならば、夏合宿を経て、いい感じで成長を遂げていなくてはならない。プロスポーツならそれをファンの前に示す義務がある。ザックジャパンはグアテマラ、ガーナとの2連戦で、成長した眩しい姿をファンにご披露する使命を課せられていた。特にグアテマラより若干強いガーナとの一戦は、その格好の機会だった。

 そのスタメンに、現時点でのベストとおぼしき選手が並ぶであろうと考えるのは当然だった。

 本番までの日程を眺めると、変わらなければいけないタイミングだった。にもかかわらず、変わらなかった。ザッケローニは守りに入った。変わったのは11人中わずかに1人。前田遼一が去り、柿谷が加入しただけ。唯一の変化である柿谷も、欧州のビッグクラブが目を凝らすようなプレイは披露できなかった。チームが成長したという実感はまるで湧かない。右肩上がりの傾向は見られない。

 今年6月、ブラジルで開催されたコンフェデレーションズ杯に出場したザックジャパンは、ブラジル、イタリア、メキシコ相手に3連敗を喫した。アジア予選を楽々通過。世界で最も早くW杯本大会出場を決めたことで、日本のファンは鼻をすこしばかり高くしていた。コンフェデ杯を前に楽観ムードを漂わせていた。 それだけに3連敗はショックだった。鼻を見事にへし折られた格好だった。このままではまずい。世界の強豪には太刀打ちできない。W杯本大会での好成績は望めない。日本はそこで大いに反省したはずだった。

 メンバー固定化の弊害も実感したはずだった。新戦力の登場なしに、右肩上がりは期待できないと、多くの人が思ったはずだった。

 コンフェデ杯第2戦、対イタリア戦において長谷部誠は、2枚目のイエローカードを受け、続くメキシコ戦には出場できなくなった。長谷部は守備的MFとして、遠藤保仁とともに岡田ジャパン時代からスタメンを張り続けてきた選手。固定化を象徴する選手だった。

 交代で先発した細貝萌は、しかし力不足を露呈した。固定化の弊害で「3人目」の選手が育っていないことが、白日の下に晒されることになった。

 イタリア戦で、杜撰(ずさん)なプレイを見せた吉田麻也にも疑問の目が向けられた。彼は、アジア予選のヨルダン戦(アウェー)でも、致命的なミスを犯していたので、守備的MF同様、センターバックも「3人目」の選手の発掘が求められていた。

 W杯本大会に出場するだけの時代なら、3人目の人材を望む欲は湧いてこなかったろう。3試合で打ち止めが分かっていれば不必要な願望かもしれない。だが日本には前回4試合戦った実績がある。できれば今度は5試合戦いたいと考えるのが一般的なファン心理だ。抽選のくじ運にもよるが、実際問題として日本がマックス値を発揮できれば、それは絶望的な話ではない。少なくともそうした希望を抱いていたいのだ。

 そのためにはフィールドプレイヤー20人全員が、戦力にならなければならない。人材発掘はそのためにも必要不可欠なテーマだった。

 普段スタメンを飾ることがない代表2軍メンバーを中心に臨むことになった東アジア選手権(7月・韓国)は、その意味でも注目すべき大会だった。こちらも期待を膨らませながら韓国まで取材に出かけていったものだ。

 それが今、とても無駄足だったように感じられる。非生産的行為とはこのことだ。柿谷一人の変更に終わったガーナ戦のスタメンを眺めると、この夏の疲れがどっと湧いてくるのだった。

 ガーナ戦、交代で山口螢が出場したのは後半も押し詰まった82分。彼の出場はわずか8分に終わった。前戦のグアテマラ戦で交代出場した青山敏弘もわずか11分。3人目としてスタメンを飾るメドは全く立っていない。ザッケローニは夏休みの宿題に手がつけられなかったことになる。

 最終ラインでは、森重真人がスタメンに近い3人目の選手になりつつあるが、こちらの場合は、文字通り3人目になる危険(?)がある。すなわち3バック(事実上の5バック)要員だ。

 ザッケローニは守備の不安を、人数を増やすことで(サッカーを守備的にすることで)解決しようとしている。その3−4−3はもはや単なる5バックだ。攻撃的では全くない。コンフェデ杯、そして仙台でウルグアイに大敗すると、サッカーのコンセプトをこっそりと、しかし大きく変えた。新戦力を発掘する前に守備的にした。自らの立場を守る作戦に出た。

 続く試合は、およそ1ヵ月後に行なわれるセルビア戦。いわゆる強豪とのアウェー戦だ。相手がどこまで真剣に戦ってくれるか定かではないが、両者の実力を考えると、日本の分は悪い。ザッケローニの取る作戦は見えている。

 スタメンはガーナ戦とほぼ同じ。ケガでガーナ戦を休んだ岡崎慎司が清武弘嗣に代わるかどうか、だ。そしてもし1点リードすれば、直ちに3−4−3と称する5バックに転じるに違いない。続くベラルーシ戦も同様だろう。

 現在発表されている限り、これで年内の国際試合は終了。いよいよワールドカップイヤーに突入する。これは畑を耕す期間が終了することを意味する。

 繰り返すが、これは3試合で本大会を後にするチームの強化策そのものだ。我々が見たいのは、5試合目でも強豪相手に立派に戦う姿だ。豊富なアイディアが搭載されたサッカーである。

 どうやらそれは見られそうもない。そうした空気になりつつある。プラス材料はほとんどなし。夏を経ても、ザックジャパンは結局、何も動かなかった。

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki