『許されざる者』の渡辺謙にインタビュー

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渡辺謙が、ことある毎にリスペクトの念を口にしてきたクリント・イーストウッド監督。『硫黄島からの手紙』(06)で仕事をして以来、彼のキャリアに大きな影響を与えてきた監督のひとりだ。そんな渡辺が、イーストウッド監督・主演の第65回アカデミー賞作品賞受賞作を、日本映画化した『許されざる者』(9月13日公開)に主演。本作に懸けた、ただならぬ思いについて話を聞いた。

【写真を見る】妻・南果歩と共にヴェネチア国際映画祭のレッドカーペットを歩いた渡辺謙/[c]2013 Warner Entertainment Japan Inc.

渡辺が演じた本作の主人公・釜田十兵衛は、命からがらで逃げ延びた幕府軍残党で、愛する女性と出会って以降、刀を封印していた。ある日、かつての仲間・馬場金吾(柄本明)から、ひとりの女郎の敵討ちの話を持ちかけられ、再び戦いの場に身を投じていく。『フラガール』(06)、『悪人』(10)の李相日監督が、舞台をアメリカから日本に置き換えた脚本を手掛け、監督も務めた。

渡辺は、本作を撮り終えたいま、イーストウッド監督の作品をリメイクしたという感覚はあまりないと言う。「話は踏襲しているけど、人物背景を変えたことで、絡み方が変わってしまった。金吾もオリジナルでは、近所に住んでいるみたいな感じだけど、今作では別々に離れて、違う道を歩んでいたという設定になっている。また、五郎(柳楽優弥)をアイヌとの混血にしたことで、(アイヌの血を引く妻との間に生まれた)十兵衛の娘や息子たちも、それと同じ宿命を背負っていくことになった。これらの設定により、気持ちが深く、それぞれの人物に乗っていけるようになったんです」。

イーストウッド監督が、日本版を見て絶賛したと言うことが、完成披露記者会見で披露されたイーストウッド監督からの手紙によって明かされた。「僕がこの作品に参加して一番良かったと思ったのは、クリントが黒澤明の『用心棒』(61)を見て、『荒野の用心棒』(64)をやり、今度は、彼がやった『許されざる者』を日本でやる。それはある種、映画を志す者同士の往復書簡みたいだなと。時代背景や国のあり方、人間の価値観まで違う国の者同士が、いろんな作品を通して、文化のキャッチボールができることを、クリントが喜んでくれた。そのことが一番うれしかったです」。

※ここからはネタばれを含みます

十兵衛は戦いを終えた後、子供が待つ家に戻らず、雪道をただひとりで歩いてゆくという結末がぐっと来る。渡辺は、その選択については、男と女に違いがあるのではないかと言う。「あの時代、逃げてきた男(十兵衛)がアイヌの女性と出会い、支え合わないと生きていけなかった。その営みの結果として、子供が生まれた。それは、僕たちが思うような普通の状況とは違っていたと思います。もっと言えば、もしも女性だったら何があっても戻っているんじゃないかと。母性ってそういうことで。でも、男はそういう動物なんです。だから、人に託してしまうわけで。何か遭った時でも、『お母さん!』とは言っても、『お父さん!』て、悲しいかな、言わないんだよね。男はどこかそういうところがあり、どこかワイヤレスで、実線ではつながってないんだなと。その孤独や刹那感はわかる気がするし、やっぱり女性とは、あり方が違う。なかなか人生って一筋縄では行かないよなって感じがします」。

いつもながら、役柄をとことん追求し、演じ切った渡辺謙。その深い解釈には、毎回うならされる。すでに世界からも注目が集まっている『許されざる者』は、大きなスクリーンで見て、日本映画界の精鋭スタッフとキャスト陣の力を実感してほしい。【取材・文/山崎伸子】