週プレでも再三その経緯を伝えてきた、武富士創業家・武井一族を相手取った集団訴訟。

これは、武富士の経営破綻によって過払い金返還額を大幅に減らされたかつての利用者たちが起こしたもので、武井家の違法経営によって同社の財務が悪化し、しかも一族は倒産に至るまでの間、会社利益を不正に個人資産へと転換させていたのだから、返還額の不足分は武井家の私財で支払うべき―というのがその主張だ。

そして、8月30日、東京地裁で武富士創業者・武井保雄(故人)の次男にして元副社長の健晃(たけてる)氏に対する本人尋問が行なわれた。

この種の裁判で被告本人が召喚されるのは極めてまれ。司法も、武井家の会社支配の手法に強い疑念を抱いている証だ。となると、今回の尋問では健晃氏による経営の違法性と、会社利益を不正に私財へ転換させる手口を、彼の証言を通してあぶり出せるかどうかが焦点だった。

当日、東京地裁には開廷の5時間以上前から傍聴券希望者が列をつくり、最終的には98枚の券に対し、140人超の希望者が集まった。

武富士倒産後、初めて公の場に姿を現した健晃氏は、ノータイの白い長袖シャツに濃紺のパンツと地味ないでたち。シャツはクリーニングから帰ってきたばかりらしく、パリッパリのアイロン跡が。そして、尋問に先立つ宣誓では、『漫画ゴラク』の作品の悪役によくいがちな顔に似合わぬ猫なで声を聞かせた。裁判官に実直そうな印象を与えようという意図なのか。

ところが、そんな素人芝居は、原告側弁護団が仕掛けたある“飛び道具”によって引っぺがされてしまう。原告側尋問の冒頭、健晃氏がノルマを達成できなかった支店長を電話で脅し上げるやりとりをひそかに録音したテープが法廷内で流されたのだ。これはまだ武富士が健在だった頃、元支店長による残業代未払い訴訟の証拠として使われたものだ。


そのテープには、支店長が何を言っても、健晃氏が「全然足りねえじゃん!」「全然足りねえじゃん!」「全然足りねえじゃん!」の怒号で畳みかけるさまが生々しく記録されていたのである。

予想もしなかった展開に狼狽したのか、原告側弁護士から「この発言はあなたのものですか」と問われても、彼は弱々しく「いえ、記憶にありません」と返答するのが精いっぱい。傍聴席からはクスクスと失笑が起こった。

以後の彼は、完全に冷静さを失ったようだった。例えば、武富士の業績が悪くなってからも株主への高配当を続けたこと(大株主の武井家を儲けさせるためだった疑いがある)を疑問に思わなかったのかと聞かれ、「たとえ会社が倒産しても、配当するメリットがあった」と悪びれず答えてしまったりという具合。

一方で、なぜ結局、会社更生法の申し立てをしたのかとの質問には無言のまま答えない。これでは、膨大な過払い金返還から逃れ、ため込んだ私財を確保するために武富士を計画倒産させたと受け取られても仕方がない、ということがわからないのだ。

また、都合の悪い質問に対しては、わざとピント外れの回答をしたり、「失念しました」「何を言っているのかわかりません」などとシラを切ったりすることもしばしば。裁判官の心証を相当に悪くしたことは間違いない。

ひと言で言えば、尋問中の健晃氏はボロの出し放題。映画やテレビの法廷劇でも、ここまでグダグダに崩される被告はめったに登場するものではない。そんな小心者が、かつてはこわもてで債務者や社員を苦しめていたのだ……。

次回、最終弁論は11月8日と決まった。健晃氏の証言は判決にどのような影響を与えるのか?