『ねじっこ』という商品をご存じだろうか? 野菜の桂むきや千切りが簡単にできると、いま主婦の間で大人気の調理器具だ。仕組みはシンプルだが、製品化の陰には“発明王”の卓越したアイデアと、世界も注目する金属加工の街・新潟県燕市の職人たちの技術力があった。

 エス・ケイ・コーポレーション代表取締役の神田省三が『ねじっこ』の開発に乗り出したのは3年前のことだった。

「主婦が苦手な桂むきが、簡単にできる調理器具を作りたい──」

 神田の頭の中には具体像もでき上がっていた。モチーフは鉛筆削り。鉛筆の代わりに野菜を入れて回せば、鉛筆の削りかすと同じように、薄い野菜のスライスができるはず──と。

 さっそく試作モデルを作った。円柱の上に円錐を重ね、円錐部分に平刃をつけた姿は、大きな鉛筆削りそのものだった。円柱部分に鉛筆の代わりに大根を入れて回すと、スライス状の桂むきが出てきた。予定どおり。だが神田は、なにか腑に落ちないものがあった。

 他人の意見も聞いてみなければ──。そう考えた神田は、調理器の卸会社「カンダ」を経営する甥の智昭を訪ねた。カンダは主に業務用の調理器を扱っていたが、一般消費者向けの商品をオリジナルブランドで発売するよう、経営戦略を練り始めていたときだった。

「いやー、これは桂むきが本当に簡単ですね〜」

 智昭はいった。そして、次のように続けた。

「でも、面白くはないな」

 智昭の叔父に対する率直な感想に、神田は反論できなかった。自身も、簡単にできあがった試作モデルにどこか思い入れがなかったからである。

「これ、千切りもできるようにならないですかね? 普通の家庭では、刺身のように“ツマ”を使う機会が多いでしょ。でも、ツマは作るのが面倒だし、技術も必要です。ツマ作りが簡単にできたら、きっと“面白い”商品になるはずです」

 千切りには、くし刃を使えばいい。試作モデルから平刃を外して手持ちのくし刃をつけ、大根をねじこんで回してみた。すると糸のような“ツマ”が出てきた。

「これで、一件落着」

 満足した神田は数日後、くし刃の製作を頼みに、馴染みの刃物職人を訪ねた。ところが職人の言葉は、予想外のものだった。

「くし刃は作れるよ。でも、手間がかかるから高くなってしまうな。この製品に使うなら……そうだなあ、5000円は下らないな」

 神田は絶句した。想定価格の倍である。くし刃の原価は、当然商品価格に跳ね返る。調理器具は、極力価格を抑えなければならない。

 ある日、智昭の会社を訪ねた神田は、ひとつの商品に目が留まった。それは金属製のおろし金だった。ステンレスの板に小さな斜めの切り込みを入れて引き起こし、くし刃を形成している。これは一般的には手間のかかる方法とされる。だが、金属加工の街・新潟県燕市にはこの加工を得意とする職人が大勢いた。そのため、加工賃も比較的安価で済む。

「これだ!」

 閃いたら実行あるのみ。神田はすぐさま刃物職人の元に向かい、件のおろし金を手にこういった。

「このおろし金と同じ方法で、野菜調理器のくし刃を作ってもらえないか?」

 数日後、依頼したくし刃ができ上がってきた。埃をかぶっていた試作モデルにその刃を取りつけ、大根をねじこんで回してみた。切り出し口から、“ツマ”がスルスルと出てくる。胡瓜や人参も同様だ。ツマがいとも簡単に、面白いように出てくる。

 今年5月、『ねじっこ』と命名され発売されるや、問い合わせが殺到。“調理器具の聖地”東京・かっぱ橋道具街でも売れ行き好調だ。

■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年9月20・27日号