FPが診断!Mart主婦の家計簿

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■何となく、何となくお金が出ていく

光文社刊「マート(Mart)」という雑誌が現在注目されているのをご存じだろうか? 食べるラー油ブームや調味料「塩麹」のブームも、この30代向けミセス雑誌から起きたと言われている。Eコマースサイト「ケンコーコム」で、2012年2月の塩麹の注文数は、11年12月に比べて実に約24倍。今、この「マート主婦」の財布の紐を緩めさせることが、メーカーの売上増の近道なのだ。

「マート」の誌面で笑顔を見せているのは、時間に余裕のある30代専業主婦が多い。ひと昔前のミセス雑誌とは違い、「節約」や「家計簿」などの文字は見かけないが、紅茶缶を利用した収納法や、100円ショップで買えるカラフルな小物などがカラーページいっぱいに躍っている。

一方で、高級ブランドバッグなどではないが、“ちょっといいモノ”系の記事も充実している。例えば「主婦XXさん(31歳)のおススメ調味料」などは、ひと瓶1000円以上することも珍しくない。

彼女たちは節約家か、それとも浪費家なのか? ──某日、首都近郊の住宅地のマンションの1室に、それらしき20代、30代の専業主婦5人を集めて話を聞いてみた。

彼女たちは近所のママ友。すでに2LDK〜3LDKのマンションを買い、車を持ち、幼稚園以下の子供が1〜2人。そろって夫の年収は約800万円という。

あくせくとは無縁の立ち居振る舞い。皆、小さな子供がいるのに身なりに手を抜いていないのが驚きだ。メークもしっかりして、ちゃんと美容院に通っていると思しきヘアスタイル。かつてブームを呼んだ“エビちゃんOL”が、しっかりと高収入男をつかまえた、という雰囲気なのだ。

月々の生活費は20万〜30万円という余裕ある暮らしぶりで、皆「今、とても幸せ」と言う。が、何と全員が「毎月、赤字です。はみ出してます」。そこはボーナスで補填するが、貯蓄もゼロに近い。

「子育て中のモデルさんのブログとかを見て、かわいい子供用のグッズがあると、ついクリックして買っちゃいます」

「洋服はOL時代に比べて買わないけれど、大学時代からずっと通っている表参道の美容院まで、毎月髪を切りにいっています」

日々何となく、何となくお金が出ていってしまうのだと誰もが言う。高級品は買わないからお金を使っている実感はないのだろうが、家計簿をつけていないため、「見える化」がされていないのだ。家計管理も夫任せか、もしくは誰もしていない。いわば、経理担当のいない会社である。

FPの花輪陽子さんは、「このレベルの年収の専業主婦家計が、1番破綻予備軍になりやすいんです」と言う。プチ高収入なので、家計簿をつけぬまま、“少しだけいいモノ”の浪費が知らぬ間に積み上がっていくのだ。

では、家計簿をきちんと付けていれば大丈夫だろうか?

都心部から地下鉄でわずか20分ほどの閑静な住宅地に住む小堺さん(仮名)一家。夫のツヨシさん30歳(商社勤務)、妻のユイコさん28歳(元金融機関勤務、現在専業主婦)と生後8カ月の子供。3人で月15万円の賃貸マンションに住む。

「僕が毎日ケータイで入力して、エクセルに入れています」

という毎月の家計簿は、ツヨシさんが1年分をプリントアウトしてきてくれた。それを見た花輪さんは、「年収の25%を貯金に回すのが理想的なんですが、ボーナスで貯金ができています。毎月赤字ですが、優秀なほうですね」。

ユイコさんには月の生活費を現金で10万円渡しているが、子供関連グッズなどは、「子供のオムツ代だけが生活費から。あとはカードで買っても夫に請求します」という。

10万円の内訳は、オムツ代、食費(ほとんど妻と子供のみ)と妻のお小遣いとなる。

「食費は5万円。お小遣いの使い道は、ママ友とのランチや月1回のお花のお稽古ぐらいでしょうか? それに、子供のものはついつい買ってしまいます。子供受けのよくない北欧製の木のおもちゃとか。よだれかけもわざわざネットで探して、フィンランドのブランドのものを買いました。2000円ぐらいするんですが、使い勝手はよくないんですよね」(ユイコさん)

ネットで検索すると、よだれかけは200円台から販売している。このあたり、先の主婦たちと同じ感覚だ。

「難を言えば、外食費、娯楽費などご主人のお小遣いがちょっと多いですねえ。外食費が今10万円程度ですが、お小遣いは年収の10%程度に抑えるのが理想。半分の5万〜6万円にすると、もっと貯金できます」(花輪さん)

ユイコさんが頷く。「以前は、月に15万円ずつ貯めていました。でも、今はそれは難しいですね」。

年収700万円の金融機関総合職だったユイコさん。妊娠が判明し、去年3月に退職。ハードワークのせいか流産しかかり、入院したことも一因だった。

「共働きの頃は、夫婦別財布でまったく気にせずお金を使っていました。海外に行って、安かったからと80万円ぐらいの時計をペアで買ったり、洋服も1着5万〜8万円ぐらいのものを買っていましたね。今はすべて箪笥の肥やしです。売ってしまいたいですね」

と嘆くが、お金にはあまりこだわりがなく、家計簿もほとんど利用することがないという。せっかくのご主人の努力も効果が半減しそう。うーん、もったいない……。

■子供が小さいうちこそ、貯めるべき

小堺家について花輪さんが心配するのは、将来のことだ。

「今はいいのですが、子供が大きくなってくると教育費がかかります。塾や私立に行くことを考えると、もっと貯金をしたほうがいいですね」

ツヨシさんも心配そうに、「教育費って、どれぐらいを考えておけばいいのでしょうか?」。ツヨシさんは、大学には奨学金で通っており、現在月々約1万円ずつ返済している。高校までは国立だった。

「私立は、学校によって差はありますが年100万〜200万円×年数になります。子供が6年生にもなると、塾代も年100万円ぐらいはかかります」(花輪さん)

ユイコさんは、「私立にはこだわらない。国立の小学校にでも受かったら儲けもの」と言う。しかし、ご自身の経験もあって、「わが子にもお稽古事をやらせてあげたい」という気持ちは強い。

花輪さんによれば、まず月5万円貯めていければいいという。そのためには、ご主人の飲食代を月5万円までに抑えることが必要だ。

「お子さんが幼稚園に入ったら、扶養控除の範囲内で働くことはメリットがあります」という花輪さんのアドバイスに、ユイコさんは「2人目も考えると復職は難しいので、資格でも取ろうかと思っています」と考え込んだ。

先の主婦たちは言うに及ばず、比較的優良な小堺家ですら万全ではない。子供がまだ小さい期間こそ、お金を貯めるか働くべきときである。「ちょっとだけよいものに囲まれて、丁寧に暮らす」生活を楽しむ余裕は、実はない。一見優雅なマート主婦家計は、「教育費破綻」という危機を常にはらんでいるのだ。

(ジャーナリスト 白河桃子=文 小原孝博=撮影)