安倍首相は多くの難問を抱えている…。最大の敵は自民党
参院選は自民党の大勝に終わり、参院で野党が主導権を握る「ねじれ」は解消された。日本の政治は、経済は、株式市場は、どこへ向かうのか?鋭い観察眼と政官財との太いパイプで知られる田原総一朗さんを本誌が直撃した。


「外国人投資家が日本株を買うのは、日本をよくするためではない」と田原さん。「彼らの狙いは、株を安く買って高く売り、利益を上げること。日本はダメだと思えば、海外勢は容赦なく売ってくるし、日本が伸びると思えば買ってくる」。株価上昇には、日本経済の本格的な復活が必要なのだ。では、安倍政権にはそれが可能なのか。

先の参院選では、改選121議席のうち自民党が65議席を獲得。非改選分を合わせると自民、公明両党で安定多数を占めた。安倍氏の率いる自民党が2012年12月の衆院選での大勝に続いて参院選も制し、今や?敵なし〞の状態に思えてくる。

しかし、田原さんは「安倍首相は難問をいっぱい抱えている。最大の敵は自民党だ」と指摘する。

脱デフレを目指す安倍首相は今年6月、金融緩和と大型財政出動に次ぐアベノミクスの「3本の矢」として、成長戦略を打ち出したが、田原さんは「とてもがっかりした」という。農業や医療分野の規制緩和、中小企業対策など重要な項目が「ほとんど先送りされてしまった」からだ。

「農業では株式会社の参入が認められず、医療では保険診療と自費診療を併用する混合診療の解禁も、農協や医師会の反対により盛り込まれなかった。経済の活性化に必要な中小企業対策も、新鮮味に乏しかった」

田原さんは「日本でも欧米並みに倒産しやすい仕組みをつくるべきだが、成長戦略に盛り込まれなかった」と嘆く。

「日本の銀行は中小企業に融資する際、経営者の個人資産まで担保に入れる。これでは会社が傾いても経営者は倒産を選択できず、首をくくるか夜逃げするかに追い込まれてしまう。しかし、欧米のように経営者の個人資産まで担保に取ることを禁止すれば、銀行は担保価値ではなく事業の収益性で融資の可否を判断するようになる。個人資産が残っていれば、事業に失敗しても経営者には再起するチャンスがある」

安倍首相が「岩盤規制」を打ち破ることができれば景気回復は続く

問題は中小企業だけではない。「1990年に世界首位だった日本の国際競争力は、昨年に27位まで落ちた。経営者が攻めを怠り、守りに入ったからだ」

「日本では専務も常務も社長にものを言えない。そうならないよう多数の社外取締役の導入論が以前からあるが、財界団体から来た産業競争力会議の委員が反対し、つぶしてしまった……」

今回の参院選で、比例区を中心に農協や医師会をバックに当選した自民党議員は多い。田原さんは「薬のネット販売解禁を前に反対集会があったが、集会を開いたのは自民党議員。安倍さんはそういう人たちとどれだけ戦えるか、今こそ正念場を迎えている」とみる。

国会議員や業界団体に守られた堅固な規制を竹中平蔵・元総務相は「岩盤規制」と名づけ、経済成長のための徹底した規制緩和を主張している。ところが自民党内でも「竹中氏を追い出せ」という声が強いという。田原さんは続ける。

「規制緩和といえば、中曽根康弘・元首相は国鉄を分割・民営化したり、日本専売公社を株式会社化して日本たばこ(JT)をつくったりと、難題を次々と処理した。その成功の立役者は土光敏夫(元・経団連会長)さん。土光氏は『メザシの土光さん』として質素な生活ぶりで国民に親しまれた名経営者。改革に抵抗は付きものだが、既得権益のある人も『土光さんが言うのだから』と従わざるをえなかった。しかし、今、土光さんはいない」

では、規制の壁を打ち破るのに野党は頼りになるのか。田原さんは「選挙結果を振り返るまでもなく、無責任さは国民にも見透かされている」。