音楽の楽しみ方が大きく変わる! YouTube、iTunesの先を行く音楽配信の今

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音楽の楽しみ方の主流は、CDから音楽配信へと移行する――随分前からそう言われながらも、決定的な音楽配信サービスは登場していないのが現状だ。はたして、現時点で“使える”サービスはどれなのか。今後の音楽配信、そして音楽界はどう変化していくのか。電子書籍『音楽配信はどこへ向かう?』の著者である、音楽評論家の小野島大氏に話を聞いた。

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■日本はいまなお「世界でもっともCDが売れている国」

――電子書籍として刊行された『音楽配信はどこへ向かう?』は、この5年間の音楽配信の動きを継続的にレポートした内容です。まずは、この間の大きな変化を振り返っていただけますか。

小野島:いまから5年前、2008年当時の音楽配信を考えると、ほとんどダウンロード販売しかありませんでした。唯一、タワーレコードが展開した『Napstar』という音楽配信サービスに定額制がありましたが、普及にはほど遠いままサービスが終了。PC用の配信はほぼiTunes一択という状況で、全音楽配信の90%をモバイルが占めていました。

当時盛り上がったのは『着うた』。これは携帯電話の着信音代わりであって、まともに楽曲を聴くことはなかなかできません。音楽好きの聴き方とは程遠いものだったし、僕自身もあまり興味がなかった。そこで、なんとかPC配信を盛り上げようとしましたが、業界の誰もがパッケージビジネスから配信へのビジネスモデルの転換が必要だとわかっていながら、「既に確立しているCD販売のビジネスシステムを崩したくない」という思いがあり、なかなかうまくいきませんでした。

そうこうしているうちに、いわゆるガラケーからスマートフォンに移行していく過程で『着うた』が頭打ちになり、さまざまな新しいサービスが登場します。

――Ustreamを使ったストリーミングや動画配信などですね。

小野島:音楽業界はこれから、レコード会社や販売店などのユーザーとミュージシャンをつなぐ「中間業者」が簡略化して、よりダイレクトにつながるシステムが構築されていくと思うのですが、その可能性の一端がUstreamで開かれました。iPhone一台あれば、素人でも何千、何万という人に音楽を届けることができる。単に「CDの代わり」にとどまらず、音楽をめぐる環境の大きな変化を予感させるものでした。

とはいえ、日本はいまなお「世界でもっともCDが売れている国」と言われていて、レコード会社や販売店の力がまだそれなりに強い。一方、欧米ではロック系ミュージシャンがどんどんメジャーから離脱していて、ここ数年、毎月の洋楽のリリース表にはR&BとHIPHOPばかりが並んでいる。日本もいずれそういう方向に進んでいくでしょう。

■『あまちゃん』サントラを贅沢に作ることができた理由とは?

――そうした中、ミュージシャンのあり方はどう変わっていくでしょうか?

小野島:例えば、欧米で広がっている音楽ストリーミング配信サービス『Spotify』は、広告さえ我慢すればほとんど無料で聴き放題。リスナーからしたら、こんなにありがたいサービスはありません。しかし、ミュージシャンの側からすると、CDを売ることに比べて遥かに実入りが少なくなるのは当然です。

これまでは、ミュージシャンの活動の主軸は「楽曲を作り、レコードを出して、それを売るためにツアーをする」というものでしたが、それが逆転せざるを得なくなる。実際、かなり名前の知れた大物でも、CDの売り上げだけでは食べていけなくなっています。

――「音楽の王道はライブなのだからそれでいい」という考え方もありますが、レコーディング技術とともに発達してきた音楽があることを考えると、難しいところです。

小野島:そうですね。例えば、スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンが「もうレコードでは食べていけない」と言っています。レコーディング芸術の極致のような作品を発表してきた彼がそういうのだから、もうどうしようもない状況なのでしょう。よりインドアなエレクトロニック系のミュージシャンであればなおさらです。

そもそも「レコードはライブのための予習用でしかない」という考え方のミュージシャンは、昔から一定数います。しかし、レコーディング作品を作ることに全力を傾注してきたミュージシャンたちは、大なり小なり考え方を変えざるをえないでしょう。同時に最近では、DAW(Digital Audio Workstation)の発達もあり、レコーディングにかける平均費用が大きく減少しています。その影響も小さくない。

――そのことは、レコーディング作品の質にも影響を与えるでしょうか?

小野島:にわかに判断することはできませんが、バンドものには影響が出るでしょう。テクノであれば、四畳半一間のアパートでもかなりのクオリティのものができる。しかし、バンドものだけは、広い部屋でドカドカと音を鳴らして録らないと話になりません。

ドラマ『あまちゃん』の音楽を担当した大友良英さんは、「NHKの大きなスタジオを自由に使えたからこそ、あれだけ贅沢なサウンドが録れたんだ」と語っています。外部のスタジオを使う民放のドラマでは、制作費の関係から、生のビッグバンドを起用し、予算を気にせず時間をたっぷりかけて制作するのは難しいのです。

■「CDは数あるグッズのひとつに過ぎない」という状況が生まれている

――『Spotify』はミュージシャンの実入りが少ない、というお話もありました。CDの売上高が高い収益を生んだ時代には、そこで得られたお金を若手ミュージシャンに再配分・投資することができていましたが、それが崩壊するとなると、音楽産業を支えてきた新人育成システムも立ち行かなくなる可能性が高いですね。

小野島:トム・ヨークがそのことに対する危惧を表明していますね。逆に言うと、「あのアーティストが売れたから、その利益を有望な新人に突っ込んでしまえ」という前時代的な“どんぶり勘定”がなくなるので、ミュージシャンが「自分たちがこれだけ売ったのだから、その分の利益をくれ」と主張して、正しい利益配分が行われるようになれば素晴らしいと思います。

業界全体で動くお金が減っていくなら、中間業者を介さず、リスナーと直接つながることで利益を確保しよう、という方向に進むのが当然の流れ。実際、ツアーでグッズを売ることが収益の柱になり、「CDは数あるグッズのひとつに過ぎない」という状況が生まれています。「CDはデジタルコピーできるが、Tシャツはコピーできないから買う」という話もよく聞くところです。

■いま"使える"! 注目の音楽配信サービスまとめ

――『音楽配信はどこへ向かう?』では、ミュージシャンとリスナーの直接的な結びつきについても詳しくレポートされています。

小野島:ミュージシャンが楽曲を登録すれば世界中の配信サービスに流してくれる『tunecore』というサービスがあります。楽曲が売れて利益が上がった際のバックも大きく、極端な話、このサービスがあればレコード会社はいらない。このサービスを使って楽曲を配信販売して、自前で作ったPVをYouTubeなりニコニコ動画なりで公開、SNSを利用して情報を拡散する努力をすればいい。

またこれに近いサービスとして、CDの販売も請け負ってくれる『cdbaby』というものがあります。いまの新人のロックバンドであれば、1万枚売れたら万々歳、という感じですから、わざわざレコード会社を通じて得る必要はない。もっと言うと、実入りの少ない『Spotify』で配信するより、こういうところで1枚1枚、作品をしっかり売った方がいいんじゃないかと思います。

また、個人が作ったDJミックスを売ってくれる『Beatport Mixes』も面白い。DJをやっていれば、誰もがミックステープを作って人に聴かせたいと思う。でも、すべての楽曲の許諾を取るなんて現実的ではないし、個人では合法的に利益を出すことなんてできない。しかし、『Beatport Mixes』に登録されている音源であれば自由に使うことができ、そのまま販売までしてくれる。売れればお金が入ってくるし、オリジナルのアーティストにもお金が行くという、完璧な仕組みです。アーティストとリスナーの関係という意味では、定額制の配信サービスより理想的なのではないでしょうか。

――小野島さんは『Music Unlimited』という定額のストリーミング配信サービスを使われているそうですが、Spotifyも含めて、こうしたサービスが日本で普及する見通しはどうでしょうか。

小野島:『Music Unlimited』はすでに日本で利用することができ、『Spotify』も来年にはスタートするのではないかと言われています。「ミュージシャンの取り分が少ない」というのは事実ですが、そうは言っても、動画サイトで聴かれれば取り分などゼロに等しい。そんな状況でミュージシャンにお金を落とすにはどうすればいいかと考えると、このあたりの定額制サービスを利用するのがリーズナブルでいいと思います。また、違法ダウンロードが刑罰化されたときに、若い人たちを音楽につなぎとめる受け皿となるのも、こういうサービスだと思います。

だから、日本で本格的にスタートしたらできるだけ多くの人に利用してほしい。日本で普及するかどうかの大きな要因は、レコメンド機能の充実にあると思います。例えば『Music Unlimited』では2000万曲以上が登録されているので、普通の人は「何を聴けばいいんだ?」と困ってしまうでしょう。そのときに、「こんな音楽が好きなら、この曲はどうですか?」とサポートしてくれる機能があれば、利用する人も増えると思います。

――これまではYouTubeを見るくらいだったけれど、一歩進んだ音楽配信を楽しみたい……という人たちにアドバイスをお願いします。

小野島:邦楽については、原盤権が分散していたり、またいわゆる4大メジャー以外のドメスティックメジャーも力を持っているから、音楽配信についてのまとまった交渉がしづらいという日本固有の問題もあり、まだまだというところ。Kポップやアジアンポップが好きなら『KKbox』というサービスがありますし、洋楽なら前出の『Music Unlimited』を利用すればいいでしょう。

先ほども申し上げたように、重要なのはレコメンド機能。手前みそですが、『Music Unlimited』では僕もチャンネルを持っており、毎月更新で、70年代の終わりから90年代初頭までのパンク、ニューウェイブなどの尖った楽曲を25曲くらいピックアップして流しています。2000万曲以上あると、巨大な中古盤屋に行って掘り出し物を探すような楽しみも得ることができるんです。

YouTubeで音楽を楽しむのもいいけれど、僕らとしては、やっぱり音楽にお金を使ってほしいと思います。タダで楽しむことに罪悪感を覚える必要はないけれど、自分の好きなミュージシャンが精魂込めて作った作品であれば、どんなかたちでもお金を払って、彼らが次の作品を作ることができる環境をバックアップしてもらいたい。配信サービスをうまく利用しながら、ミュージシャンとリスナーの理想的な関係が築かれることを祈るばかりです。


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小野島 大さん:音楽評論家。 著編書は『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)など。

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