イランの英字サイトが掲載した写真を見ると、殴打は事実のようだが…

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サッカー韓国代表が、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会のアジア最終予選、イラン戦でもめにもめたのは記憶に新しい。監督同士の舌戦に端を発し、試合終了後は勝利したイラン側が韓国ベンチを「挑発」、怒った韓国スタッフがイランの選手を殴打したような映像まで流れた。

双方ともに国際サッカー連盟(FIFA)に相手を提訴。ところがペナルティーが与えられたのはイランだけだったという。

イラン監督の「挑発行為」には警告処分

問題の試合は2013年6月18日、韓国・蔚山で行われた。対戦前から「中傷合戦」が起きるなど荒れ気味だったが、結果は1−0でイランが勝利。するとイランのケイロス監督が韓国ベンチに向かって「ガッツポーズ」を見せ、選手もピッチ上をウイニングランしながら相手側を挑発するような動きを見せた。イラン選手が走り寄ってきたところ、韓国のふたりのスタッフが殴りつけた――。やや不鮮明な映像を見ると、ひとりがひじのあたりをぶつけ、衝撃でふらついたイラン選手の顔面にもうひとりが「左ストレート」を叩きこんでいるようだ。

イランサッカー協会は事態を重く見て、FIFAに提訴。試合後のピッチに、地元で敗れて怒り心頭の韓国サポーターからガラス瓶などが投げ付けられ、イラン選手が危険な目にさらされたことも提訴の理由だった。一方の韓国側も、ケイロス監督の態度を問題視して、FIFAに抗議文を送ったという。

FIFAの裁定は、韓国側有利に下ったようだ。イランの英文サッカー情報サイト「ペルシアンリーグ・ドット・コム」は9月1日、FIFA規律委員会がイランのゴールキーパーに対して、後半開始時にピッチに遅れて入ってきたことに罰金を科すと決定。ケイロス監督も、韓国ベンチにこぶしを突きだして勝利を誇示したとして警告を出したという。

ところが、イラン側の訴えは何も認められなかったそうだ。「暴力行為」に関するおとがめはなし。試合後に観客席から「何百本もの瓶が投げ込まれた」件も不問に付されたという。このサイトが掲載した写真では、韓国スタッフがイランの選手を左手で殴りつけているような様子がよく分かる。「FIFAイランにとって納得できない裁定を下した」と、記者は不満タラタラだ。

サッカージャーナリストで「フットボールレフェリージャーナル」を運営する石井紘人氏も、「報道が事実なら、イランの挑発行為に罰を与えながら韓国の報復行為には何もなし、というのは違和感があります」と首をひねる。

日韓戦での「横断幕」でも処分の形跡見られず

石井氏が注目したのが、韓国スタッフによるイラン選手への殴打だ。仮に試合中、選手同士が殴り合えば「一発退場、出場停止数試合」に処されても不思議ではない。たとえ相手側に挑発されたからといって、暴力を振るったとなれば「ペナルティーがあってもよかったと思います」。映像という「確たる証拠」が残っているように考えられるが、見過ごされた理由はナゾだ。

では観客がピッチにモノを投げ込んだ事実はどうか。「確かに問題行動ですが、暴動とまでは言えません」と石井氏。比較されるのが2006年の北朝鮮代表の例だ。北朝鮮サポーターが暴徒化してモノ投げ入れにとどまらず、相手チームの選手の乗ったバスを取り囲んだことから、ホーム主催試合の権利をはく奪され、次戦では遠く離れた中立地での無観客試合を余儀なくされた。韓国の場合は「そこまで危険ではなかった」との判断だったのだろう。

それにしても最近の韓国代表は、試合以外での「お騒がせ」「問題行為」が少なくない。2012年のロンドン五輪では日本戦で、島根県・竹島を韓国領だと主張したプラカードを選手が掲げた。また2013年7月の東アジア杯では同じく日本戦で、観客が「歴史を忘れた民族に明日はない」とハングルで書かれた巨大な横断幕をスタンドで広げた。いずれも、歴史的な主張を禁じるFIFAの規定に違反する疑いがある。五輪のケースは、国際オリンピック委員会(IOC)が、プラカードを持った朴鍾佑選手に2試合の出場停止と罰金を命じたものの、銅メダルは授与した。横断幕の一件は、特に処分が出された形跡はない。

報道されたイラン戦の裁定内容について石井氏は、「サッカー界全体ではそれほど大きな事件とみなされていないのでしょう」と指摘。

それにしても、今回の「韓国寄り」とみられても仕方がない決定に、なんとなく釈然としない感は残る。なお韓国の主要メディアはいまのところ、この問題には沈黙したままだ。