福島第一原発の汚染水流出で、地元漁師が大打撃を受けたが、それ以外にも打撃を受ける人々がいるという。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が解説する。

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 福島第一原発の汚染水流出が止まらない。東京電力によれば、原発周辺の海水に含まれるトリチウムの濃度が8月のわずか1週間で8倍から18倍も高くなった。あきらかに「何かが起きている」ことを示す異常事態である。事故は2年5か月を経て「新たな段階」に突入したとみていい。この危機をどうやって収めたらいいか、まだだれにも分からない。一方で、事態は急速に悪化している。

 もう一つ、汚染水問題の深刻さを感じさせるのは、一見、部外者に思えそうな金融市場が懸念を強めている点だ。日本経済新聞は原子力規制委員会が今回の事態を「レベル3(重大な異常事象)」と評価した8月21日、円安に関連して「『海外投資家が日本から投資マネーを引き揚げる』との見方も円売りを誘った」と報じた。

 私も複数の金融関係者から「汚染水問題はどうなるのか」と質問された。彼らの頭にあるのは「日本が汚染水をコントロールできないと、日本への批判が高まるだけでなく、中期的な対日投資にも影響が出てくるのではないか」という連想ゲームである。

 いま日本経済に世界の目が集まっている。アベノミクス効果で円安株高が進行し、ようやく15年デフレから脱却する、日本復活が本物になる。そんな期待が高まっている。そこへ起きた汚染水問題は、原発事故がまったく収束していないことを思い出させた。

 それどころか、放射能を海に撒き散らし始めている。ウォール・ストリート・ジャーナルだけではない。ニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムズなど欧米の有力紙もこぞって汚染水問題をとりあげている。事故はむしろ拡大している。

 日本の新聞には「タンクに欠陥があった」とか「監視が甘かった」といった記事があふれている。だが、現状の解説にとどまらず、もっと根本的な原因と今後の見通しに迫ってもらえないか。当然ながら、対策に追われる政府や東電は「悪い話」は言わないだろう。それを言ったら、直ちに「では、どうするのか」と問われるからだ。

 そこを書くのはメディアの仕事だ。もしかしたら、水で冷却するという方法自体を見直す必要さえ出てくるかもしれない。政府が言わない部分にこそ大胆に斬り込んでほしい。

※週刊ポスト2013年9月13日号