NY発 ファイナンシャルINSIDE_9月号
米国の投資家の間で日本国債を売買することで収益を上げるETFが注目されている。バブル崩壊以降、長らく日本は「ジャパン・パッシング」「ジャパン・ナッシング」などと無視され続けてきたが、ここに来て流れが変わり始めたようだ。


注目は「JGBL、JGBS」。最近、米国の投資家コミュニティーではこんな銘柄が言いはやされ始めており、経済ニュースのウェブページには関連のバナー広告が流れる。これらはドイツ銀行グループが組成しているETF(上場型投資信託)の名称で、JGBLは日本国債先物の価格と連動しており、日本国債のロング(買い)、JGBSはショート(売り)を意味している。

運用残高で見ると、JGBLもJGBSも、まだ数千万ドル(数十億円)程度の小さなETFであるが、米国のETF投資家の間で日本関連の債券系銘柄が注目されるのは珍しい。バブル崩壊以降、日本の金利は低位にへばりついており、「投資妙味がない」というのが常識だったからだ。

個人、機関投資家を問わず、米国の投資家の間で日本経済が注目されている。安倍政権が金融、財政、成長を柱にしたアベノミクスを打ち出したことで、見直しムードが強まった。株式の分野でも、為替リスクをヘッジした日本株ロングのETFは、昨年末から倍々ゲームで残高が増え、米国の個人投資家の間で一世を風靡した。

「海外売上高比率の高い銘柄リスト」。ウォール街を代表する大手投資銀行のゴールドマン・サックスが5月に配信したアナリストレポートでは国際優良銘柄を特集した。米国国内株ばかりが注目されていた地合いの逆を張る見方だったのだが、特筆すべきは、日本での売上高比率の高い銘柄が紹介されたことだ。

過去10年ほど、日本経済の低迷と相まって、投資セグメントにおける日本は他のアジア地域の構成銘柄の一部として紹介される例が大半だった。にもかかわらず、ゴールドマンのレポートでは、あえて「日本」を独立した項目にした。ウォール街の日本への関心が高まった証拠である。

もちろん楽観は禁物だ。安倍政権成立当初に広がっていた強気一辺倒の株式相場観は、日本国債利回りが急上昇した4月以降は後退している。特に「第3の矢」と呼ばれる成長戦略に対する失望感は大きく、日本株の割高なバリュエーションと相まって、5月に外国人マネーが一気に利食い売りする引き金となった。それでも日本への投資が注目されること自体はいいことだ。個人的な話をさせてもらうと、筆者が2006年に米国に来て以来、日本への関心は低下する一方だった。「ジャパン・パッシング」(日本通過)、「ジャパン・ナッシング」(日本は関係ない)といった侮辱的な言葉が生まれたぐらいだった。

それと比べると、足元の関心度は歴然たる差だ。ウォール街のアナリストレポートには頻繁に日本情報が掲載され、ファンドが日本投資を研究する。「ナッシング」ではなく、「ジャパン・イズ・サムシング」(日本には何かある)。日本経済に対する相場観はどうであれ、商いが増え、相場にさまざまな意見が反映されることは好ましい。

松浦 肇(Hajime Matsuura)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員

日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。




この記事は「WEBネットマネー2013年9月号」に掲載されたものです。