この魔法の箱を使えば、誰もがメーカーになれる――。新たなものづくり革命を起こすと言われている米国発の「3D(3次元)プリンター」が、いよいよ日本でも身近になりつつある。

 樹脂や石膏を使い、思い通りの立体物を作り出せる3Dプリンターは、すでに自動車部品の試作品づくりに導入されたり、人工骨を造形して治療法に役立てる開発が進んだりと、日本の産業界や医療分野で活躍の幅が広がっている。事件現場の再現模型を裁判資料に用いようとする動きまであるらしい。

 これまで普及のネックとされてきた1台数百万〜数千万円という高価格帯は、技術の進歩や用途別タイプが増えたことなどから、2011年ごろから100万円を切る製品も登場。そして、ついに個人向け16万円という廉価モデル(米3Dシステム社の『Cube』)が、8月上旬より家電量販店のヤマダ電機でもお目見えした。

「自分そっくりのフィギュアを作って飾りたい」「孫の足型を残したい」「子供の学習も兼ねて車やロボットなどの模型ができないか」「自分でデザインしたかわいいアクセサリーが欲しい」など、個人客のニーズは膨らむばかり。

 だが、「過度な期待は禁物」と話すのは、IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志氏。

「自分で体験してみると分かりますが、皆さんが想像されているほど簡単に使いこなせるものではありません。まず3Dスキャナーがついているわけではないので、モデルをそのままプリンターで造形することはできません。そのため素材となるデータはCAD(コンピューターによる設計)ソフトを使って自分で作成するか、3Dモデルデータのダウンロードサイトからひな型を引っ張ってくるしかありません」(安蔵氏)

 現在200万円以上はする3Dスキャナーがもっと身近な存在にならない限り、リアルな生活をモデルに残すのは難しいという。

 さらに、実際の造形作業や完成品も満足できるものとは限らない。

「例えばiPhoneカバーひとつ作るのに1時間以上も待たなければなりませんし、素材の樹脂価格で換算すると400円はかかります。また、個人用途の安価な機種では、出来上がりは樹脂の積層が目立ち、薄いものであれば力を入れただけで割れてしまうこともあります。より精巧な立体物に仕上げたいならば、やはり法人向けの高額機種を使わないと厳しいかもしれません」(前出・安蔵氏)

 しかし、まだ黎明期の技術であるがゆえに、さらなる進化の余地も残されているのは間違いない。安蔵氏も「いつ普及のブレイクスルーがあるか分からないが、それは来年でもおかしくない」と話す。写真や現物があればすぐに3Dデータに起こして瞬時に造形してくれる。そんな3Dプリンターの登場はそう遠い将来ではなさそうだ。

 そして、国産3Dプリンターの次世代機に寄せる期待も大きい。ある大手電機メーカーの幹部がいう。

「米国が3D技術に関する特許を独占していたこともありますが、そうでなくても日本の大手メーカーは3Dプリンターの開発には及び腰でした。このままいけば、スマホのようにまた中国や韓国製の新製品に押されてしまうでしょう」

 折しも8月26日、経済産業省は2014年度予算の概算要求の項目に、3Dプリンターの開発支援費45億円を盛り込む方針を固めた。アベノミクスの成長戦略にも掲げられ、国を挙げての開発競争に挑む。日本のものづくり復権を果たす「魔法の箱」ができるか。