規則的に乱高下する日経平均株価。その謎を解こう!
なぜ、日本株は規則的に乱高下を演じるのか?それは外国人投資家であるヘッジファンドの自動売買プログラムが影響しているが、つまるところグローバルな金融市場での円が基軸通貨ドルに従属するローカル通貨の地位にあることに起因している。日本の投資家にとって最も大切なことは、短期的な売買に動じない姿勢だ。


日経平均株価は5月23日の急落以来、乱高下を繰り返したが、乱高下の主犯は周知の通り、ヘッジファンドを中心とする海外の投機勢力である。「投機」というと、手がつけられない魔物の仕業のような印象を持つが、彼らが引き起こす株価の乱高下は規則性に満ちている。

今年1月初めから6月中旬までの日経平均株価の7営業日前と比較した変動率を、日本時間で前日の米国の代表的な株価指数であるNYダウと円ドル相場の各7日前比変動率合計値と突き合わせてみた。すると、8割の確率で同一方向に変動し、ほぼ重なりながら揺れ動いている(下図上のグラフ)。この計算方法で算出した日経平均株価理論値を実際の日経平均株価と対比させたのが下図下のグラフである。その近似性には目を見張らされる。

7日前との比較にしたのは、短期間の趨すう勢せいがくっきり浮かび上がるからだ。前日比、あるいは数日前比では小刻みすぎて趨勢を読み取りにくい。ランダムなはずの株価変動が、なぜこうもたやすくコントロールされるのか。日本株の売買金額の5〜6割は外国人投資家で占められるが、外国人投資家の主力はヘッジファンドや欧米系投資ファンドであり、その本拠は米国ウォール街に置かれている。彼らは、米国株式相場と円ドル相場の変動を総合した日本株の自動売買プログラムをコンピューターに組み込んでいる。日本の機関投資家や個人投資家は外国人に引きずられるようにして株を売買する。したがって、日経平均株価は外国人主導で上下に変動し、国内の投資家が追随することで上下にバイアスがかかる。

投機に翻弄される日本の株式市場の弱さは、グローバルな金融市場での円が基軸通貨ドルに従属するローカル通貨の地位にあることに起因する。日本株はウォール街にとってローカル通貨建ての金融商品にすぎない。ウォール街の投資ファンドはグローバルな資産運用をドル建てで組んでいる。彼らの帳簿上、日本株の運用比率は一定期間、同一に保たれる。一番大きな運用シェアを占める米国株が上がれば、日本株の保有比率が下がるので、彼らの自動売買プログラムが日本株買いを指令する。ドル安・円高となると、日本株のドル換算価格が上がるので、日本株は売られる。逆に円安になれば日本株買いとなる。ヘッジファンドは、この方程式を踏み台にして投機にいそしんでいるのだ。

また、投機筋にとって日本国債は絶好の儲けの道具である。円高が進むとみれば日本株を売って日本国債に替え、円安を見込むと日本株を買い戻す。黒田日銀が異次元金融緩和を打ち出す前に日本国債は投機筋によって大量に買われ、国債利回りが急低下(国債相場は急上昇)したが、4月4日に実際に異次元緩和が打ち出されたとたん、投機筋は利益確定のために日本国債を一斉に売ったので国債利回りは急上昇(国債相場は急下落)した。国債を売却した資金が株に向かい株価は上がり続けたが、円安が円高に転じた5月23日に株は急落した。「円高=日本株売り」の自動売買プログラムが一挙にフル回転し、ウォール街の日本株投資ファンドは日本国債売りで設けた資金で買った株を一気に売却して利益を荒稼ぎしたのだ。

日本の株と国債を中心とする金融市場が世界の金融センター、ウォール街に支配される現実は、ドル基軸通貨体制の下では短期間では変えようがない。ドル基軸体制は2008年9月のリーマン・ショックで揺らぎ、没落すると多くの識者からみられたが、危機にさらされたのはドルを追撃するはずのユーロだった。FRB(連邦準備制度理事会)はさっさとドルを大量に増刷してウォール街に流し込んで、住宅ローン担保証券、米国債、そして米国株式市場を安定させ、ドル金融市場を焼け太りさせた。

日本の投資家にとって重要なことは、短期的な売買に動じないことである。短期売買に慌てふためいて後追いしても、投機勢力にもみくちゃにされるだけである。



※日経平均理論値は円/ドル相場と米国の株価変動率から算出。

田村秀男(たむら・ひでお)
産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員

産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員。日本経済新聞ワシントン特派員、米アジア財団上級フェロー、日経香港支局長、編集委員を経て現職。『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『円の未来』(光文社)、『人民元が基軸通貨になる日』(PHP研究所)、『財務省「オオカミ少年論」』(産経新聞出版)など著書多数。今、政府・日銀の金融経済政策運営に対して数多くの有益な提言を行なう気鋭のジャーナリストとして注目を集めている。



この記事は「WEBネットマネー2013年9月号」に掲載されたものです。