『スタートレック イントゥ・ダークネス』J.J.エイブラムス節満開で大興奮。
パラマウント・ピクチャーズ・ジャパン/全国公開中

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「SFは絵だねぇ」という名言を残したのは野田昌宏。
スペース・オペラを研究し、SFを書き、『ひらけ!ポンキッキ』のガチャピンのモデルになった人だ。
『スタートレック イントゥ・ダークネス』、驚愕のテンポに大興奮して、興奮おさまらず近所のサイゼリヤでわーわー感想話し合って、ひといきついて、思い出したのが「SFは絵だ」って言葉だ。

こんなに凄いのに、劇場は満席になってなかった(池袋シネマサンシャイン、日曜日の最終回)。
えええー。
なぜ!?
「スタートレックってシリーズものでしょ? 観てないしー」ってことだろうか。
スタートレック『宇宙大作戦』は、1966年にスタート。
日本でいえば、『ウルトラQ』の放送開始の年、ビートルズが来日した年だ。
5シリーズのテレビドラマ、12本の劇場作品がある。
長大なシリーズなので、過去作を観てないと楽しめないのではと怖じける人もいそうだが、『スタートレック イントゥ・ダークネス』はだいじょうぶ。
過去作を知らないと意味不明という部分はない。リブート(再起動)版の2作目だが、前作『スター・トレック』すら観てなくてもOK。
単独で楽しめる作品になっている。保証する。
ファンサービスの台詞やコネタも随所にあるらしいが、そんなこと気にしてるヒマなしのジェットコースタームービーだ。

「スタートレック観たことあるけど、SFとしてマニアックすぎて、映画で観るには……」という人もいるかもしれない。
そんな人もだいじょうぶ。濃くない。
逆に言えば、濃密なテーマ性や、エッジの尖った思弁性を求めると、肩すかしかもしれない。大活劇なのだから。
初めて『スター・ウォーズ』を観た時、ぎゃーすげーと驚愕し、ワクワクし、現実世界にもどりたくないとまで思ったあの感覚。そっちに近い。
と思ってたら、J.J.エイブラムス監督は『スター・ウォーズ』次回作に抜擢されたとか。

J.J.エイブラムスは、『アルマゲドン』の脚本を手がけ、2004年放映スタートのテレビドラマ『LOST』(めちゃくちゃ面白いからひとまず1話だけでも観るがよいよ! huluにもある)で大ブレイク。トム・クルーズ主演の『M:i:III』で映画監督デビュー、怪獣映画の傑作『クローバーフィールド』を制作し、2009年『スター・トレック』の監督となる。

『スタートレック イントゥ・ダークネス』も、J.J.エイブラムス節満開。
最初からフルスロットル、はじまって3秒で観客をひきつける。
真っ赤で奇っ怪な植物群の間を逃げる二人。追う二ビル星人たち。
「何をやった?」「盗んだ」「何を?」「あいつらの崇拝してるもの」
背後では火山が噴火寸前。逃げる二人は、カーク船長とマッコイ少佐だ。
一方、スポックは噴火を止めるために噴火口の中へ。ところが途中で命綱が焼き切れて、噴火口に落下。
逃げるカークとマッコイ。だが道は途切れ、断崖絶壁。
と、あああ、ここまでで、まだはじまって数分。
この後も、二重三重に絶体絶命的状況が重なってきて、クライマックス!クライマックス!クライマックス!ってハラハラしっぱなしで、ほっとして、ようやくタイトルが出で、はっ、映画はじまったばっかりだった、と気づく始末。
いや、細かい展開を書きたいところだが、もう最初から凄いので、何を書いてもネタばれだ、観てからのお楽しみを奪いたくないので書くのをよそう。

ジェームズ・T・カーク船長を演じるのはクリス・パイン。堂々とした船長って感じではなく、ちょっと猫背、前のめりのやんちゃ坊主。少年漫画の主人公タイプ。勇気、友情、根性にあふれるが、無謀、無軌道。もうちょっと考えて行動すれば、そもそもこんなことにはならなかったろうにと説教もしたくなる。
もうひとりの主人公は、ザッカリー・クイントが演じるスポック。とんがった耳、「それは非理論的です」とロジカル優先なキャラクター。「感情がない」のではなく、感情を抑え、コントロールできるキャラクターとして奥行きのある存在となっている。
そして、今作初登場の敵役ジョン・ハリソンは、ベネディクト・カンバーバッチ。テレビシリーズ「シャーロック」でホームズを演じ、大人気の英国紳士。『マトリックス』ばりの黒いロングコートで立つ姿、隔離室で涙ながらに無念を語る表情、大アクションシーン、もうね、まあ、こりゃ惚れるわな、女性ファンが多いのも納得って感じですよ。
と、それ以外にも、今作大活躍の機関主任スコッティ、スポックファンはきーってなってるかもしれないスポックの恋人・通信士ウフーラ、黒い下着のサービスシーンもありキャロル科学士官、マッコイ医療主任、スールー操舵士、チェコフ副操舵士、それぞれの登場人物に見せ場があり、キャラが立っている。

猛スピードのテンポで展開する物語の中で、たくさんのキャラをいきいきと描く手腕は、冷静になった今、思い起こしてみると凄いことだ(観ている間はワクワクしてそれどころじゃない)。
スポックを演じるザッカリー・クイントが「JJは、スケール的にもビジョン的にも壮大なストーリーを、キャラクター同士の関係や、感情のドラマにフォーカスしながら語って聞かせる名手なんだ」(『PEN+』)と言っているのに大賛同。
さらに、その壮大なビジョンを、説得力のある絵として観せるパワーがJJの才能だろう。
浮上するエンタープライズ号のかっこよさ! 損傷したときの破片や残骸のリアリティ。崇高さすら感じる噴火口の中で目を閉じるスポックの姿。重力の錯乱で落下するモノと人の描かれる奥行き! 贅沢な俯瞰映像で映される異世界(40,000フィートもの大スケールセットを建造!)。激突シーンの群衆の多さと行動や表情の多彩さ! 排気口のディテール、隔離室の機構(血を採るための手を出す穴!)、操舵室のメカの数々(タッチパネル化)などなど。
ああ、思い出すと、興奮してきたw
凄い絵を、凄いテンポで、観る者の予想のひとつ上を行く展開で観せる。
ぜひ、『スタートレック イントゥ・ダークネス』を大スクリーンで観てJJマジックを堪能してほしい。(米光一成)