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『銀河鉄道999』は、40代以上なら誰もが知っている物語だろう。1977年から少年漫画雑誌で連載が始まり、翌1978年からテレビアニメが放映された。今回紹介する劇場映画版は1979年公開で、メディアとしては後発だった。しかし、公開当時は漫画連載もテレビアニメも継続中。この劇場版が最終回を描いた最初の作品だった。それだけに注目され、アニメブーム、さらには原作者・松本零士氏のブームを巻き起こした。

『銀河鉄道999』は、漫画やアニメ、映画で作品を親しんだ人々にとっては、すっかり心の中に定着している。しかし、「旧型客車を牽引した蒸気機関車が宇宙を旅する」という設定は、冷静に考えると荒唐無稽だ。松本零士氏は戦艦を宇宙に上げ(『宇宙戦艦ヤマト』)、蒸気機関車を宇宙に上げ(『銀河鉄道999』)、次は何を宇宙に持って行くんだ……? と思ったら、なんと『1000年女王』で関東平野を宇宙に持って行ってしまった。

こうした大胆な設定にも拘わらず、作品を見た多くの人々に感動を与えている。設定は奇抜でも、物語に込められたメッセージに共感できたからだ。

銀河鉄道といえば、元祖は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。日本人の心にはこの童話が根づいている。だからこそ、『銀河鉄道999』も受け入れられたかもしれない。これほど多くの人々を感動させた「鉄道映画」も珍しい。

○機械伯爵に復讐するため、少年は謎の美女と旅する

遠い未来。人類はついに機械の体を開発し、永遠の命を手に入れた。しかしそれは、機械の体を買える富裕層と、機械の体を買えない貧困層を生むことになった。差別社会は進み、生身の人間は機械人間に虐げられてしまった。なかでも機械伯爵は劣悪だ。人間狩りを楽しみ、剥製を城に飾っているという。

スラム街の孤児、星野鉄郎は、機械人間から銀河鉄道のチケットを奪い、機械の警察官に追われる。捕まる瞬間、謎の美女・メーテルに助けられた。鉄郎はチケットを盗んだ理由を、「銀河鉄道に乗り、機械の体をただでくれる星に行きたいから」と打ち明ける。そんな鉄郎にメーテルは、「私を連れて行ってくれるなら」という条件でパスを渡す。

2人は地球発アンドロメダ行の銀河超特急999(スリーナイン)号に乗り、宇宙へ旅立つ。土星の衛星タイタン、冥王星、惑星ヘビーメルダー、そして終着駅へ。旅の途中で手にした「戦士の銃」の縁で、憧れの宇宙海賊キャプテン・ハーロックやクイーン・エメラルダスと関わり、鉄郎の意志が変化していく。終着駅で「永遠の命」を手に入れるか、それとも……。

少年の頃に同作品を知った人なら、その結末や続編『さよなら銀河鉄道999』の存在を知っているはず。それでも、あらためて観ると、せつなさや勇気に何度も心を動かされる。少年時代を懐かしみつつ、大人の目線で観ると新たな発見もあって面白い。ラストの重要な戦闘場面で、クイーン・エメラルダス号が駅をふさぎ999号を戦火から守っていることなど、当時の筆者は気づかなかった。

物語の中には旅の本質があり、人生の真理があるように思う。ぜひ、現代の少年たちにも観てほしい作品だ。

○銀河鉄道はCTCにあらず!? 車窓を信号機が通り過ぎる

999号は20世紀の蒸気機関車と客車の姿をしている。機関車はC62形48号機。客車の外観の描写は荒いけれど、客室や最後尾の展望車からスハ43系の急行形客車と思われる。しかしそれは姿だけ。実際は最新技術で駆動する軌道系宇宙航行システムだ。C62形のボイラーの内部は光り輝くメーターが並び、燃える石炭など投げ入れたら再起不能になりそうだ。

C62形48号機は実在し、なんと松本零士氏がナンバープレートを保有しているそう。48号機が採用されたエピソードとして知られている。なお、テレビシリーズでは50号機だったという。C62形は49号機まで実在したので、その次の番号が採用されたようだ。

劇中、鉄郎とメーテルは2号車に乗っている。車内は四角いボックス型の席が並ぶ。このタイプの客車は、時期によって2等車と呼ばれたり3等車と呼ばれたりした。劇場版では最後尾に展望車を連結しているから、鉄郎とメーテルの座席は3等車になるだろう。展望車は3等級制時代の1等車だった。他の場面では、リクライニングシートの客車やコンパートメントも出てくる。これらが2等車となる。

ちなみにテレビアニメ版や原作漫画での999号は展望車がなく、鉄郎が乗り込むときも、「2等車」と表示されていたようだ。食堂車も登場するけれど、内装は昔の日本の食堂車よりゴージャス。古き良き時代のヨーロッパ国際列車の雰囲気だ。

駅の姿にも注目してみよう。始発駅と終着駅は未来型の機械に囲まれた駅だ。しかし途中駅のタイタンは田舎の駅。惑星ヘビーメルダーのトレーダー分岐点は幹線の大規模な駅がモチーフになっていて、どこか懐かしい雰囲気を持つ。さりげなく留置されている鉄道車両や、ポイントの配置も興味深い。結局は単線の空間軌道に収束するというしくみだけど、なぜかポイントが多い。駅の雰囲気を描写するために、線路の分岐は必需品だから、という理由だろう。なお、999号の各駅の停車時間はその星の自転周期と同じだという。

鉄道趣味的に興味深い場面は、車窓をときどき通過していく物体。球体を横棒でつなぎ、赤いランプが点滅する。信号機である。地球を飛び立ってすぐに確認できるほか、後の場面でもさりげなく車窓を横切っている。きっと宇宙は広すぎて、CTC(列車集中制御システム)は採用されなかったに違いない。そんなふうに鉄道の考証を空想すると、鉄道ファンならではの楽しみも発見できるだろう。

○映画『銀河鉄道999』に登場する鉄道風景

(杉山淳一)