精神保健福祉士に聞く。SNS依存にならない方法とは?「自分でルールを決める」

大学生の半数近くがSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のLINEに疲れているというニュースが話題になりました。

FacebookやTwitter、LINEなどのSNSが広く社会に浸透する一方で、依存症やSNS疲れといった声も聞かれます。依存し過ぎずにSNSと付き合う方法について、依存症の専門クリニックである御徒町(おかちまち)榎本クリニック(東京都台東区)の精神保健福祉士・斉藤章佳(さいとう・あきよし)先生にお話を聞きました。


■「使用時間は1日1時間」など、自分でルールを決めて実践する

――SNS依存の人が増えていると聞きますが、「依存」とはどのような状態を指すのでしょうか?

斉藤先生 専門家からさまざまな定義が発表されていますが、それをもとに私は分かりやすく、次のように定義しています。

それは、「ある物質や行為や関係によって何らかの社会的損失(犯罪・失業・離婚・経済的損失など)や身体的損失(けが・体調を壊すなど)が出ているにも関わらず、それをやめられない状態」です。

SNSによって仕事や家族との日常生活に支障をきたしている人は増えています。当院にも診察中でもスマートフォンを手放せず、「精神科なう」とSNSに投稿する患者さんがいました。

――どうしても仕事中にFacebookを見てしまうという声をよく耳にします。

斉藤先生 軽度の依存状態にある人は増えているようです。でも、一般の多くの人は、「投稿は1日3回ぐらいまで」とか、「家族や友人と過ごすときには見ない」など、自分自身である程度のルールを決めて、またマナーを守って使っているのではないでしょうか。

SNS依存症にならないために大事なのは、このように自分で使用上のルールを決めることです。さらに、決めたらそれを実践する、守ることが大切です。そうすれば、のめり込み過ぎることはありません。

ですが、自分で決めたルールを守れなくなることが依存症となる最初の兆候です。

――守ることができないから依存状態になってしまうわけですよね。重度にはまる人の傾向はありますか?

斉藤先生 親しい人から指摘を受けた場合は深刻になり始めていると思った方がいいでしょう。特に、第三者がプライベートの空間にいない一人暮らしの人は、はまりやすいので注意が必要です。

また、依存症は「愛と注目の欠乏症候群」と言われ、現実世界で批判ばかり受ける、あるいは誰にも相手にされないと感じている人は、みんなに「いいね!」と言って肯定してもらえる、居心地がいいと感じるウェブの世界に逃げてしまいがちです。

そうなると徐々に抜け出せなくなっていき、現実世界よりウェブの世界を大事にする「優先順位の逆転現象」が起こります。

ただ、愛や注目が100%満たされている人はめったにいませんので、そういう意味では誰にでも陥る可能性があると言えます。

――Facebookの「いいね!」の数が気になる、LINEの既読がプレッシャーになるなど、SNSに苦痛を感じる人が急増しているようです。

斉藤先生 自己評価が低い人にそういう傾向が多く見られます。評価軸が他人になっていると、まわりの目が気になりますし、LINEで既読になるとすぐに返事をしなければ嫌われるのではないかと思ってしまうのです。

適正な自己評価ができている人は、まわりの反応をあまり気にしません。自己評価は成功体験を積み重ねることで高めることができます。他人の評価を気にし過ぎず、LINEを使う時間を決める、返事は24時間以内に返せばOKと決めるなど、この場合もやはり自分でルールを設定することが大切です。

■完全に遮断せずに、SNS使用を自己管理できるように訓練する

――SNS依存により日常生活に支障が出た場合は、どのような対策をとればいいのでしょうか?

斉藤先生 アルコール、薬物、ギャンブルであれば、完全にやめる、あるいは依存対象から離れることが大事です。しかしSNSは現在、就職活動に使う企業もあるほど、コミュニケーションにおいて重要度が高まっているという一面もあります。完全に遮断するのではなく、自身のコントロールを取り戻すことを目指すように勧めています。

――どうすれば自分の意志でコントロールできるようになりますか?

斉藤先生 まずは「時間管理法」と言って、決められた時間だけ使うようにする方法です。時間制限のフィルタリングを利用するなどしてインターネットを使える時間を物理的に制限するのもいいでしょう。

待受画面に自分で決めたルールを貼り付ける、オンライン利用時間が表示されるようにするなども有効です。重症化して自分一人では実践できない場合は、第三者に管理してもらうことから始めましょう。

SNS依存は、体に悪いと分かっているのにスナック菓子をつい食べ過ぎてしまうのと同じで、「生活習慣病」と変わりません。特効薬は存在せず、自分で痛みを感じ、自分で習慣を変えていくしかないのです。

依存状態に陥ることは、生活時間の一時停止、人生の時間が止まっていると言えます。依存症から回復した人は、「自分に使える時間がこんなにあったんだ!」と気付きます。

――何も考えずにダラダラ使っている現状を改めます。ありがとうございました。

斉藤先生もFacebookやLINEを日常的に使用しているそうですが、「知らない人とは友だちにならない」、「投稿は1日1回まで」とルールを決めているとのことです。依存傾向の自覚が少しでもある人は、早めにマイルールを見直してみましょう。

(尾越まり恵×ユンブル)

取材協力・監修:斉藤章佳氏。御徒町榎本クリニック精神保健福祉部次長。精神保健福祉士。社会福祉士。アルコールを中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DVなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。日本で初めて「性犯罪者の地域トリートメント」に関して体系的なプログラムの実践・研究を行っており、全国各地での講演も含め幅広く活動中。
http://www.enomoto-clinic.jp/