アベノミクスで日本経済が盛り上がっていると言われても、景気が良いのは一部の業界と企業だけで、多くのサラリーマンには元気がない。日本と日本人が世界と戦うのに必要な原動力とは何かについて、大前研一氏が解説する。

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 参院選に圧勝した安倍晋三首相は「経済政策を前に進めていけという大きな声をいただいた」と政権運営に自信を深め、「全国津々浦々まで実感できる強い経済を取り戻す」と意気込んでいる。

 しかし、アベノミクスで盛り上がっているのは証券、不動産、輸出関連などごく一部の業界と企業だ。多くのサラリーマンは、企業のIT化やグローバル化が進み、大規模リストラの波に脅かされる中、人員削減のシワ寄せで仕事の量だけが増えている。

 このため、職場では「うつ・無気力」「疲弊・燃え尽き」「あきらめ」などメンタル面を病んだ社員が続出し、長引く業績低迷で人間関係がぎすぎすして暗いムードの会社も少なくない。

 消費では、私が7〜8年前から指摘し続けている「低欲望」社会が定着し、少子化・高齢化の中で右肩下がりの傾向が続いて、日本という国全体が閉塞感に覆われている。さらには国際的な競争力も低下し、今や「ジャパン・パッシング」が常態化して“落日”“斜陽”の老大国になりつつある。

 かつて「エコノミック・アニマル」と揶揄されるほどの経済成長を実現し、日本製品が世界を席巻して「ジャパン・アズ・ナンバーワン」「日はまた昇る」と称賛されたのが嘘のようだ。

 なぜ、日本はこんなに落ちぶれてしまったのか? 日本人は、所詮この程度の国民だったのだろうか? いや、それも違うと私は思う。

 なぜなら、今、芸術やスポーツの世界では日本人が大勢活躍しているからだ。たとえば、世界中の有名オーケストラで日本人の弦楽奏者がいないところはないし、チャイコフスキー国際コンクールでは諏訪内晶子さん、佐藤美枝子さん、上原彩子さん、神尾真由子さんが優勝している。

 スポーツでも、サッカーで世界の一流クラブチームに所属している選手や野球のメジャーリーガーは数えきれないし、競泳でもメダルを連発している。スキーのジャンプでは高梨沙羅さんがワールドカップで日本人選手として初めて、しかも史上最年少の16歳4か月で個人総合優勝を達成している。アニメやゲームのクリエイター、建築家などにも、世界的に有名な日本人は数多い。

 彼らに共通しているのは、【1】文部科学省の指導要領に基づいて教育されていないこと、【2】インストラクターなどテーラーメイドの教育・トレーニングを受けていることである。つまり、純粋に「個」の能力とアンビションを原動力に、目線を上げて世界と戦っているのだ。

 戦後第一世代の偉大な日本人経営者たちもまた、文部省教育の埒外で誕生している。

 パナソニック創業者の松下幸之助さん、ソニー創業者の盛田昭夫さん、本田技研工業の本田宗一郎さん、三洋電機創業者の井植歳男さん、シャープ創業者の早川徳次さん、オムロン創業者の立石一真さん、ヤマハ発動機創業者の川上源一さんのうち、盛田さん以外は1人も大学を出ていない(立石さんが卒業した熊本高等工業学校は後に熊本大学工学部、川上さんが卒業した高千穂高等商業は後に高千穂大学となっている)。

 ということは、この人たちがグローバル企業を作り上げ、経営者として大成功した理由もやはり、学校での勉強ではなく、アンビションなのである。

※週刊ポスト2013年8月30日号