テレビドキュメンタリーの劇場映画化はANN系列でも初めての試みとなった「標的の村」

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琉球朝日放送(QAB)が制作したドキュメンタリー番組「標的の村〜国に訴えられた沖縄・高江の住民たち〜」が、8月10日から「標的の村」として、東京・中野区の映画館「ポレポレ東中野」で上映中。今後、大阪、京都、愛知、兵庫、沖縄など全国で順次公開されていく。

【写真を見る】現在も沖縄に追加配備されているオスプレイと国に訴えられた安次嶺現達さん

同作は、QABの三上智恵アナウンサーが監督を務めた、2012年9月に放送されたドキュメンタリー番組「標的の村〜国に訴えられた沖縄・高江の住民たち〜」の映画版。10月にはアメリカ軍の新型輸送機・オスプレイの配備が迫る中、その約1か月前に全国放送された。

放送直後から反響を呼び、テレメンタリー年間最優秀賞、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、第18回平和協同ジャーナリスト基金奨励賞、2013年 日本ジャーナリスト会議 JCJ賞など、数々の賞を受賞。この全国での30分版放送の後、同年12月には46分版として沖縄ローカルで放送された。

すると、直後にその映像がネットに上がり、一人歩きを始めていく。アクセス数も3万を超え、DVDで欲しいという依頼が報道部に殺到した。その映像を使って上映会や勉強会をする人々が後を絶たないという状況が生まれていく。地方のドキュメンタリー番組としては、異例の現象が起こった。

そして、このたび、テレビでは放送できなかった部分を加えた再編集を施して、91分の映画作品として公開されるに至る。

映画の主人公は、事故が多発しているオスプレイの着陸帯が自宅のすぐ近くに建設されると聞き、反対の声を上げた沖縄県東村高江の住民たち。高江は、沖縄本島の北部、やんばる(山原)と呼ばれる中の東村(ひがしそん)にある地域で、人口160人の集落だ。6人の子どもを抱える安次嶺現達さんは「住民の会」を作り、着工予定地に座りこんだところ、「通行妨害」で国に訴えられる。国が、国策に反対する住民を民事で訴えるという、前代未聞の裁判となった。

市民の反対意見を封じ込めることを目的に「権力のある側」が「個人」を訴えることをアメリカではSLAPP(Strategic Lawsuit Against Public Participation)と呼び、多くの州で禁じられている。だが、日本にはこうした訴訟を防ぐ手立てがなく、被告にされた高江の住民らは3年半に及ぶ裁判の間、資金も時間も奪われ、身体的・精神的な苦痛を強いられる。しかも、当時7才だった安次嶺さんの娘にまで通行妨害の嫌疑が掛かり、訴えられた。

戦後、人権が蹂躙され続けた占領下の沖縄で、沖縄の住民運動が最後の抵抗手段にして来たのが「座りこみ」という手法だった。それを「通行妨害」に矮小化し、国が住民を裁判にかける手法が成立するなら、国に都合が悪い沖縄の声はますます封殺されてしまう。

その後、建設予定の6カ所のヘリパッドも集落を取り囲む配置になっており、そこにオスプレイが来ることも明らかになる。そして、2013年10月1日、オスプレイが沖縄の空に姿を現す。

映画化に当たり、監督の三上氏は、「テレビではお見せできなかったシーン、テレビでは味わえない長いカット、そして、テレビ局の機動力なくしては捕えられなかった普天間基地のゲート前に身を投げ出した人々の生々しい怒りと悲しみ、有形無形の暴力…。今、まさに進行中の沖縄の基地を取り巻く現状を、ぜひ、大きなスクリーンで見届けて下さい。この島と、国の、不幸な関係をもうこれ以上次の世代に丸投げしたくはない。そんな思いで制作致しました。そのためには、全国の皆さんのお力が必要です。どうか劇場に足をお運びいただいて、91分間おつきあい下さい」と、コメントしている。

91分という時間は、高江の住民や番組制作者にはすごく短い時間であったかもしれない。ただ、なかなか伝わらない沖縄の現状をリアルに伝える、貴重な映像であることは間違いない。