【宙にあこがれて】第35回 脚なんて飾りです!?

こんにちは、咲村珠樹です。飛んでいる飛行機にとって「必要ないけど必要なもの」って何でしょう? ……というなぞなぞが成立するほど二律背反するもの、それが降着装置です。今回はこの降着装置についてのお話です。

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降着装置とは、着陸時や地上にいる時に機体を支える仕組みです。英語のランディングギア(Landing Gear)を訳したもので、単に「ギア」とか「脚」と呼ばれることが一般的ですね。航空機の設計者にとっては頭を悩ませるものでもあります。

というのも、飛んでいる時には全く必要のないもの、いわば「飾り」でありながら、着陸時の衝撃に耐えて機体を支えなければいけないからです。着陸時の衝撃に耐えるように丈夫に作れば重くなり、余計な機体重量になってしまいます。また、出しっぱなしにしていると空気抵抗が大きく、高速で飛ぶ際には邪魔になります。できれば機体内部に格納してしまうのがベストですが、この格納装置も余計な重量の元に。……という訳で、設計では降着装置を「可能な限り軽く、そして十分な強度を」という、相反する要素を両立させたギリギリのラインを狙うことになるのです。

最初に動力飛行を果たしたライト兄弟の「ライトフライヤー」は、降着装置としてソリを使っていました。これは砂浜であるキティホークを前提としていたからで、硬い地面に降りることは想定していませんでした。現在では舗装された滑走路をはじめ、ある程度硬い地面の上で飛行機は運用されているので、雪上などごく一部の例外を除いては車輪式の降着装置を使っています。

垂直に離着陸し、滑走することがないヘリコプターの場合は、簡便な為に現在でも小型の機体でソリが使われています。ただし、地上を移動させる際には、ソリの下に車輪を取り付けないと動かすことができません。この為、ある程度大型の機体になると、ヘリコプターでも車輪式の降着装置が採用されています。

ソリ式の降着装置を持つR22車輪式の降着装置を持つAW109

飛行機で「最大離陸重量」というのを聞くことがありますが、これは陸上で降着装置が機体を支え、エンジンの出力や定められた滑走路の長さで離陸させられる最大限の重量ということ。これと同時に「最大着陸重量」というのも設定されています。これは降着装置が着陸の衝撃に十分耐えられる最大限の重量で、多くの場合最大離陸重量よりも軽く(国際線仕様のB747-400の場合、最大離陸重量より約100トン)設定されています。

飛行中にトラブルが発生して着陸しなければならなくなった時、なかなか着陸しないで周辺を周回することがありますが、これは機体重量が最大着陸重量を超過している為に、燃料を消費して機体を軽くしているんですね。燃料の流量計などで燃料消費率は計算できるので、どのくらいの時間飛べば機体が軽くなるかが判ります。慌ててそのまま着陸すると、衝撃に耐えきれずに降着装置が損傷し、更なる大事故に繋がってしまうので、焦らず機体重量を計算しているという訳です。緊急性が高い場合には、燃料を空中に投棄する場合もあります……燃料は霧状になって揮発してしまうので、地上にそのまま降り注ぐということはありません。

同じくらいのサイズであっても、陸上のみで運用される機体と、空母などで運用される艦上機では、艦上機の方が丈夫な降着装置を持っています。これは艦上機の場合、使えるのは空母上のわずか200m程度の範囲、それも着艦フックを引っ掛けるワイヤが設置された数十メートルの場所を狙って降りる為に、どうしても急角度に降下せざるを得ず、その分衝撃が大きくなってしまうからです。通常の滑走路で「この辺りで車輪を接地させてくださいね」という指示のついた接地帯の長さが、2400m以上の滑走路では空母の飛行甲板の2.5倍ほどの長さだったりするので、着艦のシビアさが判ります。

F-15Jの主脚F/A-18Eの主脚

大型機になると、それなりに降着装置や車輪も大きくなります。……といっても整備上の限度があるので、ある一定の大きさに達したら車輪の数を増やして重量分散を図る、ということになります。特に輸送機は多くの車輪が並んで壮観です。

米空軍C-5輸送機の主脚

装着されているタイヤも非常にシビアな状況で使われています。通常のジェット機の場合、着陸時の速度はおよそ時速250kmくらい。接地するまでタイヤは回っていませんから、接地した瞬間に時速250kmで回り出し、すぐさまブレーキをかけられる訳です。例えるなら、F1マシンのフルブレーキをずっと行っているようなもの。着陸する飛行機を見ていると、滑走路に接地した瞬間にパッと白い煙が上がるのが見えますが、あれはタイヤのゴムが蒸発してできる煙です。

接地時にタイヤから上がる煙

また、ブレーキは多板式ディスクブレーキが使われており、現在はF1同様高温での効きがいいカーボン製のブレーキディスクが主流。また、ブレーキがロックしない為のアンチスキッド(ABS)は、飛行機用に開発されたものが自動車の世界に応用されたものです。現在では便利な自動ブレーキシステムがついており、事前に減速率を設定しておけば、滑走路に接地して車輪が回り始めたら自動的に設定通りの減速率になるよう、グランドスポイラー(エアブレーキ)と車輪のブレーキが作動してくれる仕組み。パイロットは方向維持と逆噴射の操作に専念できるようになっています。

ジェット旅客機で使われているタイヤは、1日6〜7回の着陸をこなすとして、だいたい1ヶ月〜1ヶ月半程度ですり減ってしまい、交換するようになっています。

すり減ったタイヤ

このすり減ったタイヤは工場に送られ、トラック用タイヤで見られるようなリトレッド(接地面に新たなゴムを接着する再生作業)が行われ、数回はリサイクルされています。よく見てみると、グッドイヤーの上にミシュランがリトレッドされていたりと、他メーカーのタイヤがリサイクルされているケースもあって面白い部分です。

グッドイヤーにミシュランをリトレッドした例

飛行機の中では普段注目されることの少ない降着装置ですが、様々な知恵と努力が詰まっているんですよ。

(文・写真:咲村珠樹)