ご理解ください!ご理解ください!ご理解ください!

「みなまで言わせるなよ」「黙れ」「これは命令だ」…という圧力。実社会ではときにこうした無言の圧力を感じることがあります。そんな圧力がこめられた言葉のひとつ、「ご理解ください」。僕は今日、この言葉に強い嫌悪感と憤りを感じました。

給料不払いのお知らせ、節電ご協力へのお願い、薬剤散布のお知らせ、断水のお知らせ…などなど、「ご理解ください」で締めくくられる内容はさまざまです。しかし、おおよそ共通していることがあります。それは、ご理解を迫られた側は、それ以上何も得られるものはなく、ただ我慢するしかないということ。

「ご理解」には納得いく説明はありません。

「ご理解」には議論の余地はありません。

「ご理解」を求められたら、そこですべては打ち切られます。

残されるのは屈伏、我慢、忍耐のみ。求められた側は、すべての理不尽を自分で解決し、耐えがたきものを飲み込むことになります。どんなにご理解できなかったとしても、状況は変わらないのですから。しかも、一方的に押し付けられるのではなく、最後の溝を自身の「ご理解」によって埋めなければならないという屈辱感たるや。

21日に行なわれた夏の高校野球・準決勝。粘りのカット打法で注目を集めた花巻東高校・千葉翔太クンは、「ご理解」によってねじ伏せられました。何と準決勝を前に、大会本部・審判部は高校野球特別規則の「バントの定義」という項目の存在をわざわざ通達し、千葉クンにカット打法を止めるよう「ご理解」を迫ったというのです。

ここで眩暈がするのは「バントの定義」に抵触するからやめろと通達したのではなく、「そういう規則があることを知っているか?」「ご理解ください」と通達したということ。違反であるとも有効であるともいわず、やめろともやっていいとも言わず、直接言葉で要求できないことを相手の「ご理解」に委ねて承服させたのです。

高校野球特別規則の「バントの定義」にはこうあります。

『バントとは、バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルするような、いわゆるカット打法は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある』

千葉クンの動画、たくさんご覧になったと思います。彼は確かにバントの構えをよくします。バットを短く持つこともあります。しかし、スイングせずに当てにいったわけではありません。バスターをするときのように小さくバットを引き、しっかりと振ってファウルを打っています。僕個人の見た限りでは、あれはバントではありません。おそらく大会本部も同じ意見でしょう。バントに見えるわけがない。大会本部が持ち出した「バントの定義」には、千葉クンの技術が正当なものであることを、わざわざカッコ書きで記してあるくらいです。

ただ、理屈はどうあれ、気に食わなかった。

気に食わないので、気に食わないことを、「ご理解」させた。


いや、別にダメならダメでいいんですよ。しっかりと段取りを踏んでくれれば。

世間では多くの意見が出ました。僕などは、その技術に感嘆し、どんどんやれと思った側。一方、ああした意図的な粘りをヨシとせず、卑怯であるとする人も見受けられました。スポーツのルールは聖域ではありません。野球のスリーバント失敗、なんてのも「あんまりバントされると試合終わらないよ!」ということで生まれた後づけのルールでしょう。変えるなら変えてもいいのです。「高校野球では禁止する技術」があってもそれは構いません。

ところが、大会本部・審判部はその意見を出さずに、ただ「ご理解」を求めた。不可なら不可と言い、これまでのルール作りの不備を詫び、今後は規則に明文化することを言えばよいのです。その上で、どのように判定し、どこまでをOKとするかのガイドラインを提示してくれればよいのです。可なら可で、世間には批判する向きもあるが、キミの技術は何ら規則に抵触することはないから思いっきり頑張りなさいと伝えればよいのです。

しかし、そうはしなかった。

何も言わず、何も自ら責を負わず、「ご理解」を迫った。

本来なら、「可である」ことを明言し、千葉クンを守るべきだった大会本部が、あろうことか「可」「不可」すら言わずに「ご理解」を求めたのです。汚い。卑怯者。ルールに照らせば「可」としか言えないものを「不可」にするために、明言できない要求を「ご理解」で呑ませたのです。こんなの脅迫じゃないですか。ヤクザが「お宅の娘さんカワイイねぇ」って言ってるときと同じやり口じゃないですか。

試合後のニュースの見出しは「千葉、規則に泣く」でした。

まるでこれじゃ、千葉クンが規則に抵触したみたいじゃないですか。ルール違反の行為をしていたことを指摘され、それで負けたみたいじゃないですか。断じて違う。規則には…少なくとも現時点の規則には千葉クンの技術を制限するものはありません。千葉クンは規則に泣いたのではないのです。

千葉クンを泣かせたのは、大会本部の「出る杭」を打つ無慈悲なバットです。

気に食わないものは後づけだろうが無理筋だろうが、圧力をかけて屈伏させるという大人たちのやり口こそ、千葉クンを泣かせたもの。千葉クンは小さな身体という不利を跳ね返すため、カットの技術を磨いてきました。その技術は彼の誇りだったはずです。その大切なものを、大会本部は「ご理解」によって、千葉クン自らの手で殺すように仕向けたのです。

自分の野球を、自分で殺す。

それがどれほど辛く耐えがたいことか。

泣かずにはいられないでしょう。

一生の晴れ舞台を、こんな不本意な形で終えるなんて。

負けて、悔しくて泣くのとは意味が違う。


今回の「ご理解」でもって、高校野球は千葉クンにどんな教育を授けたのでしょうか。僕には、「世の中には理不尽がたくさんある」「何が正義かを決めるのは権力を持つ側なのだ」「弱者は黙って従えばよい」ということしか伝わってきません。まぁ、それは世の中の真実の一部ではありますから、正しい教育だったのかもしれません。そういうことを教える舞台なのだとしたらいっそ「先輩からの理不尽なイジメに耐える方法」とか「子どもで金儲けする新聞販売業経営ノウハウ」とか「給料を土で払う方法」とか、世界の上下関係についても一緒に学ばせてあげるといいかもしれませんね!

千葉クン、よかったね!いいことを学べて!

千葉クン、わかったかな!出る杭は打たれるんだよ!

千葉クン、いいかい!セコイ技術はいらんのだよ!

千葉クン、よく聞け!世の中はこうやってまわっているんだ!

千葉クン、この学びを胸に、強く・明るく・たくましく生きてくれ!

※ただし、権力者の許す範囲で。

ということで、鳥が自分の翼を折る場面を見たときのような気持ちで、21日のNHK中継による「夏の高校野球準決勝 花巻東VS延岡学園戦」をチェックしていきましょう。


◆延岡・横瀬クンの好投と千葉クンのカット技術の激突が見たかった!

迎えた準決勝。千葉クンは新聞でも大きく取り上げられ、NHKの朝の情報番組では「粘る男」として特集も組まれました。一躍今大会のスターダムにのし上がった感もあります。しかし、気に食わない者にはとことん冷たいのが世の中。千葉クンはすでに翼をもがれたエンジェルだったのです…。

↓千葉クンは準々決勝後にご理解を迫られていた!
実は19日の準々決勝の後、大会本部と審判部からカット打法について花巻東サイドに通達があった。高校野球特別規則に『バントの定義』という項目があります。ご理解ください」。

「バントの定義」とは「バントとは、バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルするような、いわゆるカット打法は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある」というもの。

千葉のカット打法はバスターのような構えから三塁側にファウルを打つが、これがバントと見なされる可能性があるということか。2ストライク後にファウルを重ねればスリーバント失敗で三振となる。大会本部、審判部は「バントの定義に触れるんではないか、ご理解ください、分かってくださいということです」と説明したが、この通達により、千葉はカット打法を封印せざるをえなくなった。

http://www.nikkansports.com/baseball/highschool/news/f-bb-tp3-20130821-1176631.html

ニッカン:「バントと見なされる可能性があるということか」
ニッカン:「バントと見なされる可能性があるということか」
ニッカン:「バントと見なされる可能性があるということか」

主催の朝日新聞系列のニッカンでさえ「ということか?」ですよ?

理解できてないなら取材しなさいよ!異論があるなら書きなさいよ!

何だこれ!

ごめんね千葉クン、最後の夏に言いにくいけど、キミが出ていく社会は基本冬なんだよ!

寒い世の中で悪いね!





延岡学園の先発は横瀬クン。今大会登板はなく、公式戦でも登板がない投手だとか。しかし、その左腕には見るものがありました。登板がないぶんフレッシュな動き。大きくベースの左右を使う投球。左打者のアウトコースに逃げるスライダーと、落差のある緩いカーブ。

小柄な千葉クンが遠くのボールにどう対応するか。ストレートよりも、むしろ遅くて大きくコースが変わる変化球のほうが苦手なのではないか。もし、全力の対戦が見られたなら、楽しみな顔合わせだったのですが…。

↓千葉クンの第1打席はストレート2球であっさりサードゴロ!
1球目 ストレート 125km 見逃し 真中低目  
2球目 ストレート 125km ゴロ 真中高目


千葉クンが早いカウントで手を出すときは、「打たざるを得ない好球」のはずなのだが…。

今日はそこそこ打てそうな球は手を出すしかないわな…。


↓千葉クンの第2打席は低めに集められてショートゴロ!
1球目 ストレート 122km 見逃し 真中低目  
2球目 ストレート 123km ボール 外角低目  
3球目 カーブ 93km 見逃し 外角低目  
4球目 カーブ ---km ゴロ 真中低目


低めの球はカットして粘りたいけど…ダメだな!

何が禁止で何がOKかわからないからな!


↓千葉クンの第3打席は「いっそバントだ」のセーフティ!
1球目 ストレート 124km ゴロ 内角高目 セーフティバント


あぁぁぁ苦しいね!胸がしめつけられるね!

ファウル打っただけでも罪人みたいな状況の中で、「正規のバントならいいんですよね」と抵抗する小鳥を見るようで!


↓千葉クンの第4打席はもはや好球すら見えなくなったド真ん中ゴロ!
1球目 カーブ 102km ボール 真中低目  
2球目 ストレート 129km ボール 外角真中  
3球目 ストレート ---km ゴロ 真中


ド真ん中だけど、打てなかったな!

普段はファウルを打つ中でタイミングをつかむんだろうに、そういう準備ができなかったんだな!





この日、千葉クンが受けたボールは全部で10球。これまでの試合なら1打席で記録することもあった球数です。ファウルを打つとタイミングがあってくるといいます。投手も投げる球がなくなっていきます。球筋が見えれば四球をもぎとりやすくなります。しかし、今日の千葉クンはただの早打ちバッターでした。

味方全体で3安打なのですから、横瀬投手にチカラ負けしたことは否めません。ですが、もし注目の中で千葉クンが粘りを見せたら、出塁していたら。応援席もどっとわいたでしょう。ベンチにも熱が入ったでしょう。最終スコア0-2という僅差の勝負に、何か影響があっても不思議はありません。

156センチと小柄な千葉クンはボックスのギリギリ前に立ちます。人より長いバットを使えるわけでもないのですから、当然のことです。そのぶんインハイ・インローのさばきは苦しくなるはずですが、彼は磨き上げたカット技術で、バットの根っこまで使ってファウルを重ねてきました。

今日、普通に戦った156センチの青年は、小さくて非力なバッターでした。連続カットが生み出す幻影はそこになく、少年のような、等身大の姿がそこにはありました。まぁ、強豪校のレギュラーを獲るのは難しいな…という、外野にも飛ばない程度の打球を放つバッターの姿が。

それでも彼は残されたもので戦いました。

1打席目、ライン上に立つ一塁手が目に入らないかのような猪突猛進。2打席目、内野安打になりそうなショートへの打球で、際どいダイビングヘッド。3打席目、またも際どいタイミングのセーフティバントで見せたダイビングヘッド。そして4打席目、すでにセカンドフォースアウトでチェンジとなっているのに、全力疾走で一塁を駆け抜けました。今できることを精一杯やっていました。一番の武器を殺して、なお懸命じゃないですか。矢尽き刀折れても、なお侍じゃないですか。

この試合、千葉クンのファウルはゼロです。

それは偶然かもしれません。まぁ偶然でしょう。

しかし、もし心の片隅にでも「今日はファウルを1球も打たない」という悲しい決意があったとしたら。それが青年の無言のプライドだったとしたら。とてもとても気高いものだと思うのです。せめて千葉クンには、それぐらいの復讐を果たしていてほしい。心の中で。僕は、この試合を見て、そんなことを思わずにはいられないのです…。

↓ちなみに、ABC朝日放送 高校野球(ねったまくん)は、同じ試合を見てこんなことを思ったそうです!




朝日:「野球の奥深さ、知ったろ?ん?」
朝日:「今は悔しいだろうが次のステージで頑張って!な!」
朝日:「あの経験があったからこそ、という日が来るよう祈るわ」

丁寧に言ってるだけで心踏みにじる感満載www

千葉クンは野球の奥深さより、違うものを知ったんじゃないかなwww

この経験を踏まえて、千葉クンは契約書の確認とかめっちゃこだわる社会人になりそうwwww


↓千葉クンは大粒の涙を流しながら甲子園を去った!



千葉クン:「自分のやりたいことを最後まで貫けなかった」
千葉クン:「悔しいです」
千葉クン:「粘って何としても出塁することが役割だったのに」
千葉クン:「それを止められてしまって…」
千葉クン:「相手投手のコントロールもよかった」
千葉クン:「野球人生の中で一番悔しいです」
千葉クン:「自分が出塁すると盛り上がるのが分かった」
千葉クン:「スタンドの皆さんが自分の力になった」

千葉クン、野球はキミを拒んでいないぞ!

高校野球に巣食う嫌なオッサンに嫌われただけだ!

その技術、誇りを持って大切にしてください!


いろいろあったけど、夏の甲子園ベスト4進出おめでとう!お疲れ様!