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ところで、KSSという会社は何をやっている会社なのか? 同社は、創業以来、飲食店事業とビル清掃事業、そして、ホームページ制作事業と住宅事業の4本柱でやってきた。この4つの事業で約50億円の年商ほどになる。一番の稼ぎ頭は飲食店事業である。和食とパスタのお店を地元宮城県を中心に12店舗展開していてそれなりの利益を出だしている。ビル清掃事業は、以前なら同社の収益の柱となっていたが近年は徐々に減収ぎみであり、現在、トントンといったところ。

また、ホームページ制作事業も黒字ではあるがやはり減収傾向にあった。そして、住宅事業だけが万年赤字なのである。この3年間、徐々に黒字化する兆しはあるものの、依然として飲食部門の利益を相当部分喰ってしまっていた。

このような状況において、事業間のシナジー効果もなく、組織上のスケールメリットも全くなく、それぞれが全くの別会社同様、単独経営をしていたのだ。これをどうするか? これが、委員会の命題なのだ。

平尾副社長が委員長となって事業の整合性と将来に向けた事業の戦略性を検討することになったわけだが、委員会の様子はというと、次期社長としての自覚もあってか、平尾副社長の発言力がとても大きく一方的な運営となっていた。その議論の中身も、もともと理論的な思考を得意とする平尾副社長らしいものであった。

「我社のCI(※1)戦略に基づくDI(※2)戦略を再構築する。これが委員会に課せられた命題だ。そして、通常業務におけるMS(※3)をより明確に打ち出すことによって、社の事業における整合性、いや統合性は保たれるだろう!」などと平尾委員長は得意の専門用語を並べたてていた。しかも、用語を省略した我田引水そのものの持論展開をすることが多かった。

※1 CI(Corporate Identity/コーポレート・アイデンティティの略) : 広辞苑によると「会社の個性・目標の明確化と統一をはかり、社内外にこれを印象づけるための組織的活動」とある。つまり、デザインという視覚的要素の他にも、企業理念や企業行動などあらゆる面を含めた企業イメージの統一を図り、他社との明確な差別化をしていく企業活動がCIなのです。CIは以下の3つのアイデンティティに分けることができます。

(1)MI(Mind Identity/マインド・アイデンティティ)…心の統一、(2)BI(Behavior Identity/ビヘイビア・アイデンティティ)…行動の統一、(3)VI(Visual Identity/ヴィジュアル・アイデンティティ)…視覚の統一(出典 : 広辞苑)

※2 DI(Domain Identity/ドメイン・アイデンティティの略) : 事業領域を意味します。"事業戦略"といってもよいでしょう。CIを具現化するための事業内容とその戦略的に展開すること。(出典 : 広辞苑)

※3 MS(Mission Statement) : 企業活動におけるミッション(mission)…企業と従業員が共有すべき価値観や果たすべき社会的使命などを意味します。従来の「経営理念」や「社是・社訓」がこれにあたりますが、そうした自社の根本原則をより具体化し、実際の行動に資する指針・方針として明文化したものを特に「ミッションステートメント」と呼ぶ。(出典 : 広辞苑)

幸いというか、平尾委員長の議論には論理性があった。

「KSSの創業以来の企業理念は"豊かな社会づくりと人々の幸せづくりに貢献する"である。これが企業の存在理由だ。つまり、CIの核になる普遍的な考え方を尊重し、その考え方を4つの事業を通して具現化するのである。当然、CIを実現するために相応しい事業の領域を作る必要があるが、実際には、KSSの場合、その領域にCIとの整合性、そして、事業間における効果性がほとんどない。ここが現状の経営課題だろう」

こんな調子である。確かに話としては論理的なのだ。但し危険要素もはらんでいた。それは平尾副社長の会話の中に事業の統廃合(スクラップ・アンド・ビルド(※4))を前提としている発想が見え隠れしていたからだ。何かを切り捨てようと試みているふしがあった。

※4 スクラップ・アンド・ビルド(Scrap and build):文字通りスクラップして立て直すという意味。もともとは老朽化した施設を廃棄し、より能率的な施設を積極的に開発していくこと。現在では事業の参入や撤退にも当てはめ使われる用語。(出典 : Weblio辞書)

(イラスト : ミサイ彩生)

<著者プロフィール>

渡辺孝雄(わたなべたかお)

拓殖大学 商学部 経営学科卒。開発メーカー・一部上場のベンチャー企業を経て、経済、経営の出版社で記者、及び営業を経験。その後、29歳で創業。今日まで3社を起業した(3社をラポールグループと呼んでいる)。創業時、一人で始めた会社が、従業員約70人に、年商もスタート時2,000万円だったものが現在ではソフト業ながら10数億円に成長した。地域No.1企業を目指し、事業の独自性を最大の武器に常にイノベーションを繰り返す。人材づくり、組織づくりは自前の理論をもとに何度も実証を重ね、独自のノウハウを構築してきた。その成功体験と失敗体験を経営の実践ノウハウにしコンサルタント業として現在活躍中。

(渡辺孝雄)