「国の借金1000兆円でも日本の体力はまだある」と岩本沙弓さん

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 財務省が発表した6月末時点での「国の借金」(国債や短期借入金などの残高合計)は、ついに1000兆円を突破した。この額だけ見れば、日本は国の破綻もあり得るほど極めて深刻な財政危機の状態にあるのではないか――と誰でも思うはずだ。

 だが、「日本はまだ基礎体力があり、世界中の投資家から“安全な国”だと思われていますよ」と話すのは、国際金融の現場にも精通してきた大阪経済大学客員教授の岩本沙弓氏。その根拠と、さらに強い国家を築くための「とっておきの内需拡大策」を聞いた。

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――国の借金、1008兆6281億円。この額でも安全だと言い切れる理由は?

岩本:それはあくまでも政府の負債です。日本全体で見れば経済主体は政府のほかに金融機関、企業、家計、非企業(NPOなど)の5つあり、負債もあれば資産もあります。資産の額を見てみると、政府は400〜600兆円、企業の内部留保は約260兆円と言われていますし、家計の資産は1571兆円あります。

 政府の負債ばかりが増えているとクローズアップされますが、実は家計の資産も年々増えていて、政府債務の増加よりも家計の資産の増え方のほうが多い。部分的な数字だけを取り上げて、日本国の全体像を語るのはおかしな話です。

 これらすべての日本経済主体の資産と負債を相殺すると、2012年度末で296兆円のお金が余っている計算になります。これは「対外純資産」といって、日本の額は22年連続世界一なのです。

――負債が多額でも余剰資金もたくさんあるから、国際金融市場では信頼されていると。

岩本:そうです。そして自国通貨建ての債券で、自国内で借金の貸し借りが増えていることも大きいのです。その証拠に10年物の国債金利が低い水準にあることが挙げられます。いまだに0.7〜0.8%という世界で見てもスイスに次ぐ低水準となっています。それだけ、どの国よりも確実にお金を返してくれるはずだと日本が信頼されているのです。

 1000兆円が危ないというのであれば、なぜここまでくる間に、あるいは今日、国債が暴落しないのでしょうか。

――しかし、余剰資産を有効活用できていないから、経済も拡大しないのでは?

岩本:日本国全体としてはお金があるのにそれが国内で上手く循環していない。それこそが日本経済が抱える最大の問題だと思います。国内では200万円、300万円以下で暮らしている人たちがたくさんいる。例えば企業の内部留保260兆円の10%でもいいから雇用の維持に振り向けてくれれば、お金も循環していくと思うのですが……。

――政府にとっても内需拡大は喫緊の課題。しかし、少子高齢化もあって国内市場の広がりには限界もありそう。

岩本:かつてのように「高級車が欲しい」「都会の一等地に住みたい」「他の人が持っている高級ブランドが欲しい」といった消費意欲というのは、これまで体験したことのないような経済発展を見せようとしている、言うなれば発展途上国型の発想。

 いまの日本は成熟国家なので、必需品はもう既に揃っているし、欲しいものの価値観がそれぞれ違います。そこで必要なのは発想の転換であり、例えば商品に付随するサービス面を充実させていくのも内需拡大の重要な方法だと思います。

――なにか具体的な内需拡大策の方策はあるか。

岩本:例えば、日本の地方都市は個性的で見るべきものがたくさんあり、どんな地方、地域に行っても素晴らしいものがたくさんあります。それを一つずつ開拓していけば、大きな需要が生まれると思います。

 私が考えているのは、震災列島の日本であるからこそ、例えば全国を北海道、関東、九州などエリアに区分けして、隣接ブロック以外のところに、なるべく多くの人が「セカンドハウス」を持てるようなシステムを取ったらどうかということです。

 各家庭でセカンドハウスを持つわけですから、家を維持するためには年に何度か訪れる必要もあります。そうした際の交通費などは所得から控除。セカンドハウスに行くためのセカンドハウス休暇があってもよいでしょう。有給でもその場合の給与はそれこそ企業の経費とみなせば、企業にとっては節税対策になるのではないでしょうか。

 そしてセカンドハウスを持ちやすくするためにも、あるいはそうでない現状のままでも、住宅ローンの負担を減らすことも必要でしょう。そこで住宅ローンについてはアメリカで主流となっているノンリコースローンを徹底すればよいと思っています。

 日本ではローンの返済ができなければ担保である住宅が取られて売却され、不足があるとその残りも払わなければなりません。今の持ち家のローンの返済で頭がいっぱいとなれば、とてもセカンドハウスを持つ気にもなれません。しかし、ノンリコースローンであれば、担保を取られるだけになります。不足分があっても返済の義務は生じません。

――それはユニークな発想だ。

岩本:日本はコミュニティーを大事にする国民ですので、災害があった時に一人でまったく知らない土地に避難するというのは難しいことでしょう。そこで、日本国内で姉妹都市や姉妹地域をお互いに結び、どこかで震災が起きたとき、市町村ごと提携する別の地方に疎開できるように普段から行き来を行い、今空いている家屋やマンションをセカンドハウスとして整備しておくのが有効だと考えています。

 その際には市民や家財道具をあるブロックから一斉に別のブロックへと運べるような手段が必要です。

 陸からのアプローチでは大量の人とモノを一斉に運ぶのには限界があります。そこで大型船での輸送がよいのではないでしょうか。電力供給も可能な大型の空母をエリア毎に配備し、計10艦は欲しいものです。空母は「鉄鋼からITまで」と言われるほど裾野の広い産業です。自国産にこだわれば内需も拡大しますし、あくまでも災害時の用途を重視してのことで、ついでに防衛にも役立つといった具合です。

 こんな話をすると呆れられることもありますが、人が使わない橋や建物をつくっておしまいなら後がありません。もっと長期的な視野に立って、エネルギー分野などもそうですが、様々な産業が安定的に成長できるような、思い切った内需拡大策を示すことも必要だと思います。

【岩本沙弓/いわもと・さゆみ】
経済評論家、金融コンサルタント。1991年から日米豪加の金融機関でヴァイスプレジデントとして外国為替、短期金融市場取引業務に従事。現在、金融関連の執筆、講演活動を行うほか、大阪経済大学経営学部客員教授なども務める。近著に『バブルの死角 日本人が損するカラクリ』(集英社新書)などがある。http://www.sayumi-iwamoto.com/