テレンス・リー
 今年6月、元CIA(アメリカ中央情報局)職員のエドワード・スノーデン氏は、政府による国内と全世界における通信傍受や、日本を含む38カ国の駐米大使館への盗聴の実態をメディアに暴露。アメリカが同氏のパスポートを失効させ、身柄の引き渡しを求める一方、滞在先のロシアは1年間の亡命を認め、両国間で緊張が走っている。

 CIAの存在は、もはや我々日本人にとっても他人事とは言えない。これまでにもCIAを題材にしたドラマや映画は数多く存在したが、危機管理コーディネーター・軍事評論家のテレンス・リーが「描かれていることにフィクションは無い」と語るのが、国際的な陰謀に巻き込まれた元CIAの女性捜査官がヨーロッパ中を駆け巡る姿を描く、本格スパイ・アクション大作『ミッシング』である。

――海外ドラマ『ミッシング』をご覧になって、率直な感想として如何でしたか?

テレンス・リー:私はどうしても専門家の目で見ちゃうんですけど、完成度が相当高いと思いましたね。まず、ドラマを仕立てるにあたっての舞台設定が完璧で、場所の選定が相当リアリティありますね。当然、脚本を書いている段階で専門家に話を聞いてるんでしょうけど、かなり綿密に取材したんじゃないですかね。例えばプラハとかウィーンとかが出てきますけど、実際、国際政治のスパイ合戦で旧ソビエト連邦のKGBとか特殊部隊スペツナズ出身の悪い連中が、本当に似たような活動しているんですよ。日本のドラマでは、そこまで出来ないから流石だと思いましたね。

――元CIA捜査官の主人公ベッカは素性を隠し、同じ職場の友人にも過去を明かしませんが、スパイは我々の身近にも存在するのでしょうか?

テレンス・リー:本人からは、一切言わないですよね。それはCIAに限らず万国共通、世界中の諜報機関で例外なくそうでしょう。例えば日本でも、公安にいた人間は、元公安だって口が割けても言わないですよ。元公務員、百歩譲って元警察官だったまでは言うかもしれませんが。

――ベッカは息子のマイケルにも過去を明かしませんが、家族にも秘密にしなければいけないのでしょうか?

テレンス・リー:私の知っている範囲では、自分の女房、子どもにも死ぬまで言わなかった人がいますよ。理由は簡単で、例えば自分がCIAだったことを奥さんが知っていたら、何かの時に奥さんが拷問されますよね。だから、知らない方がいいんです。今回のケースでは、マイケルが自分の母親と、死別したと思っていた父親のポールがCIAのエージェントだったと知っていたら、彼は拷問されますよ。それを知っているということは、更に突っ込んだことも知っているのではないかと拷問する側は当然思うので、それを避けるために言わないんです。何も知らないのが一番安全なんですよ。

――CIAを見分けるコツはありますか?

テレンス・リー:難しいですね。よく日本の映画やドラマで、公安警察とかがインカムで喋っている場面が出て来ますけど、あんなこと実際にやっているのはホストクラブぐらいで、本当の情報機関の人間は一切やらないですから。ダックス・ミラーというCIAパリ支局副部長がいましたけど、実際はこういう銀行員みたいなのばっかりですよ。かと言って、見るからに屈強なシュワちゃんみたいなのはいませんから(笑)。見分けるとしたら、例えば独特の目配りとかありますけど、素人が見ても分からないでしょうね。

でも、都内のトンカツ屋でよくCIAがメシ食っていますよ、本当に(笑)。会話を聞いていると、どこまでがプライベートで、どこからが仕事なのか分からないけど、普通に家族の話とかしていますね。みんなすごくガッチリしているけど女性もいっぱいいて、男女交じって、昼休みには昼休みの会話をしているし。でも断然、緊張感が漂っていて、近寄り難い雰囲気がありますね。ONとOFFの使い分けは極めて瞬間的で、もう一分一秒で変わると思います。

――ちなみに、CIAに限らず、人の本性や、男女間での嘘を見抜くコツはありますか?

テレンス・リー:劇中にも確か「あの時、君は俺の目を見て、視線を逸らさずに言ったが、それは君が嘘をつく時の癖だから。」とか、そんなセリフがありましたね。よく嘘を見抜く方法として、相手の眼球の動きで、どっちを向いている時は…とかありますけど、相手の嘘を見抜くのは、やっぱり一緒にいることです。近くにいる人間の嘘って見抜けますよね。男は大体、嘘を見抜かれますけど、男が嘘を見抜くのって相当至難の技で。女性の方が完璧に嘘をつきますよね(笑)。

――テレンス・リーさんでも、女性の嘘は見抜けないものですか?

テレンス・リー:見抜けない時が多いし、嘘って見抜かない方がいい時もあるでしょ。騙されてあげた方が気が楽だし、幸せが長続きするから。嘘を見抜いて、鬼の首を取ったかのように言った瞬間、全ての関係性が壊れるから。「嘘だな…」と思っても、「そうだね」と言ってあげるのが大人の対応というか、揉めずに済むし。

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