『ワールド・ウォーZ』監督:マーク・フォスター/出演:ブラッド・ピット、ミレイユ・イーノスほか/配給:東宝東和/原作:マックス・ブルックス『ワールド・ウォーZ』(文春文庫刊)/8月10日2D&3D全国一斉ロードショー

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ブラッド・ピット製作・主演の最新作「ワールド・ウォーZ」が公開中だ。国連調査員のブラッド・ピットがゾンビ感染を食い止めるために世界中を飛び回る本作は、既に全世界で興行収入5億ドルを突破しており、ブラッド・ピット主演映画の中で歴代1位の大ヒットが確定している。日本でも先週末の成績は『風立ちぬ』に次いで2位のヒット。日本の宣伝では伏せられているようだけど、ゾンビが出てくる大作ということで早速観てきた。

とにかく速くて量が多い映画だ。最初の家族団欒シーンだけちょっとのんびりしているが、そこから渋滞に巻き込まれてヘリが飛び人が逃げてバイクが暴走し爆発が起きてトラックも暴走。たたみかけるトラブルで5分と待たずにパニックのど真ん中に叩き落とされる。

敵も速くて多い。ここまで速さと量が強調されたゾンビ(病気の感染者ともいえる)は初めてだ。襲うときは全力疾走。痛みも疲れもなく全身でもんどり打つように突進してくる。噛まれてから感染するまでも速い。噛まれる倒れる痙攣する目が裏返る走り出すで、わずか12秒だ。噛んだほうもちゃんと味わってる様子もなく、一人終わったら次、一人終わった次、とまるで流れ作業。噛むほうも噛まれるほうもせわしない。だからあっというまに感染が広がる。群れになって押し合いへし合いしながら迫りくる姿は、人間というよりも洪水とか地すべりとかそういう災害みたいだ。

それに対する主人公は、一人だ。同行する護衛はいても相談はできない。持ってる通信機器はイリジウム携帯だけで連絡先は一般人の妻だけ。いちおう国連代表で全人類の命運を背負っているのに、終盤になるまで相談相手さえいない。だからやはり速さでカバーしなくてはならない。ゾンビが襲いかかってきたなら迷わずサクッと殺す。その人だって感染病の被害者なのに、と悔やむ様子も無い。途中で手がかりがなくなったら、偶然牢屋にいたアタマがおかしそうな人の話だけで次の目的地を決める。一緒に考えてくれる人も時間も無いのなら、即断即決で進むしかない。

かねてからのゾンビファンとしてはここが不満だ。ゾンビは一体一体よく眺めて生前どんな人だったか思いを馳せたいし、登場人物にはじっくり悩んだあと他人と相談してもめてほしい。でも人がゆっくり悩んでいるようなパニックは、もうリアルではないのかもしれない。

人を襲って感染するゾンビ映画が出てきたのはだいたい1970年代。そこから技術は進歩した。ネットが普及してサービスが発達したおかげで、個人でもより大きなことをより速くできるようになった。速くできるようになれば、やらなきゃいけないことも増える。深く考えずにやったことが思ったより大問題になることもある。人間は技術ほど進歩していない。

ゾンビは人間を映す。1970年代のゾンビ映画ではゾンビはのんびり歩いて襲ってくる。その頃は今ほど便利ではないから、人がバカになるとやれることは少なくなったからだと思う。今やバカになるとやれることは増える。たとえば真偽が不明な情報を拡散したり、感情任せのツイートやコメントで他人にかみついたりするのに考える力や時間は必要ない。だから現代のゾンビは全力で走って襲ってくる。そんな群れに正面切って対抗しようと思ったら、自分も考えるのをやめて速く動かなければならない。

この映画のラストシーンは丸々ボツになって大きく変わっている。当初はゾンビ殺戮マシーンと化したブラッド・ピットがロシアの軍隊を引き連れてゾンビの大群と激突する内容だったそうだ。つまり、即断即決がエスカレートしてそのままドーン!と駆け抜けるラストだったわけだ。結局ファミリー向きじゃないからボツになったそうで(そのせいで制作費が約70億円増えて約190億円になった)、ゾンビファンとしてはその贅沢なラストも是非見てみたい。ただ、いくぶん迫力や一貫性に欠けるとしても、ラストシーンとしては今のほうがよかったと思う。詳細は実際に観てほしいけれど、より速く多くと張り合うのではなくて、みんなに相談して知恵を絞って工夫する。それこそ人間なんだ、と希望が持てるラストだからだ。
(tk_zombie)