今週はこれを読め! ミステリー編

 ここ数年の江戸川乱歩賞はおもしろい展開になっている。2011年の第57回は、『よろずのことに気をつけよ』の川瀬七緒と『完盗オンサイト』の玖村まゆみが同時受賞、女性の受賞者は1996年の第42回受賞者である渡辺容子以来15年ぶり、しかも女性同士の同時受賞は初めて、という記録尽くしの回だった。その次、2012年の第58回は、幻想小説の分野ですでに何冊も著作があるベテラン高野史緒がまさかの応募で受賞、しかも賞に輝いた『カラマーゾフの妹』は、ドストエフスキーの名作の「第二部」にあたるパスティーシュだった。

 この2年の受賞作家を話題性で抜け、というのは酷な話だろう。そういう意味での派手さはないが、作品自体はなかなか飛びぬけた内容である。竹吉優輔『襲名犯』が第59回の江戸川乱歩賞受賞作だ。作者は1980年生まれと若く、可塑性もありそうである。

 本作で扱われているのはシリアル・キラーの犯罪だ。関東の地方都市である栄馬では、凄惨な連続殺人事件が起きたことがある。被害者の死体を解体して弄ぶ猟奇犯で、住民を恐怖のどん底に陥れた。反面、その犯行手口の奇矯さから、事件はまるで祭りのように騒がれることにもなったのである。それには理由があった。事件について語ったあるコメンテーターが、犯行の模様がルイス・キャロルの「スナーク狩り」に似ていると発言したことため、それにちなんだ「ブージャム」の名で犯人が呼ばれるようになっていたのである。
 だが幕切れはあっけなく訪れた。中学二年生の男子が車に轢き殺される事故が起きた。その車を運転していた新田秀哉という男が、取り調べに当たった警官に、自分が連続殺人事件の犯人であることを認めたのだ。新田がいわゆる美青年であったことから無責任なファンがつくなどまたもや報道は過熱気味になったが、裁判は淡々と進み、死刑判決が出た。新田は粛々とそれを受け入れたため、事件から14年後のある朝に刑は執行されたのである。
 
 物語は秀哉の死後から始まる。彼に轢き殺された南條信には、双子の弟・仁がいた。すでに成人した彼が働く栄馬市の図書館に、ある日レファレンスの依頼が届く。14年前のブージャム事件に関する報道記事をすべて集めてほしいというのである。私情を殺して検索に当たる仁だが、さらに彼を動揺させる事態が待っていた。栄馬市で再び猟奇殺人事件が起きたのである。現場にはブージャムを名乗る署名が残されていた。そして仁の元に何者かからの贈り物が届く。それは、被害者の遺体から切り取られた指だった。

 先行する事件の手口を模倣する犯人をコピーキャットというが、本書の犯人がそれであることは明らかである。ただし、なぜそのような行為に走るのかがわからないのだ。常人には理解できないブージャムの異常心理を含め、殺戮者の動機を見付けなければならない。小説の随所には作者によって仕掛けられた罠があり、読者は一瞬たりとも油断ができない。
 また、本書は殺人事件の被害者である南條仁の成長を描く教養小説にもなっている。実は信と仁の兄弟には複雑な家族環境という事情があり、仁は自分が死んだ兄の身代わりであるという屈折した思いを抱えて日々生きていた。人生を借り物であるかのように考えている主人公が、自分を取り戻せるか否かの物語であると言ってもいい。虚ろな人間を中心に据えたことによって、読者が主人公に後押ししたくなる要素も増えた。

 本書の応募時の題名は「ブージャム狩り」だった(実は、その題名のほうが好きである)。実は予選委員として一次からこの作品を読んできて、受賞後に修正が行われた個所などもなんとなくわかる。応募時からだいぶ内容が整理され、エンターテインメントとしては読みやすくなったと思うのだ。つまり現在進行中でこの書き手はどんどん進化をしている。早く成長して乱歩賞の先輩作家に追いつき、追い越せ。

(杉江松恋)



『襲名犯』
 著者:竹吉 優輔
 出版社:講談社
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