2年に一度開催される「世界陸上」。14回目となる今回の開催地はロシア・モスクワ。
8月10日〜19日の大会期間中、毎日実況を担当するTBS初田啓介アナと土井敏之アナ。

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TBS・初田啓介アナ&土井敏之アナに聞く「世界陸上モスクワ」の見どころ。
後編では、放送の裏側も含めた、マニアックな楽しみ方をお聞きします。
(前編はこちら)


《資料作りのほうがメチャクチャ大変》

初田 今回のモスクワ大会、現地アナウンサーは5人で回していきます。大会を重ねる毎に、仕事がうまく、効率的にできるようになってきた気はしますね。ほんと、最初は大変だったんですよ。今では選手の情報もデータ化して、欲しい情報だけを全部印刷できるようになっていますが、97年のアテネ大会の時は、陸上競技のノウハウもないし、スタートリストなんて全部手書きで書いていたんです。

土井 昔は、細長ーいシールを作って、そこに、選手の名前を書いて、自己ベストと身長を書いて、予選が終わったらそのシールをはがし、準決勝の4レーンに決まったからそこに貼るーみたいな。

初田 貼り間違えたりしたらもう大変だし、もうほんと、地道な手作業。

土井 ロンドンの陸上大会では4位に入った、といったメモもそこにみんなで書き込んでいくんですが、はみ出さないように書かないと、はがしたときに何がなんだかわかんなくなっちゃう(笑)。だから、試合後の資料作りのほうがメチャクチャ大変なんですよ!

初田 もう、ずーっと資料作り。資料作りして、喋って、帰ってきたらまた資料作りして、また喋っての繰り返し。夜の競技が終わったら翌日の分の準備が、夜中の2時3時までは当たり前にかかりますね。そして翌朝は早い。

土井 大会3日目くらいまでが大変ですね。朝は予選があるし、予選をまず喋って、予選が終わってから決勝の準備をして……。

初田 選手の個人情報に関してはですね、国際陸上競技連盟が製作する「バイオグラフィ」というものがありまして、それが私たち放送に携わるモノの命なんです。過去の世界陸上は何年に出て何位だった。五輪では何位だった。何人兄弟の何番目で、お兄さんも陸上をやっていた……といったパーソナルな情報も全部そこに書いてある。でも、全部英語なんですね。それを辞書片手に読み解いて、その資料の中に、私たちアナウンサーがみんなでメモを書き込んでいくんです

土井 書き込む作業はさすがにコンピュータではできませんもんね。

初田 さらにそのメモをディレクターがひとつにまとめて、現場と本社に送ります。

土井 織田さん、中井さんのスタジオMC二人の手元にも、「スタートリスト」ということで手元に届いているんですね。それを見ればだいたいのことがわかるようになっています。でも、そのコツコツ書いていく作業がもう大変。

初田 2005年のヘルシンキ大会の時、為末大選手が銅メダルを取りまして、受賞後にTBSのスタッフルームに遊びに来てくれたんです。その時たまたま、僕たちみんなで書き込み作業をしていまして、それを見た為末さんが「ここが支えてくれるんですね」と言ってくれたんですよ。そのひと言がねぇ、もう、今でも嬉しい! 嬉しかったし、もっと頑張んなきゃなって思ったし。

土井 そのとき為末さん、スタッフルームにいる人の数の多さにビックリしていましたね。「世界陸上って、10人くらいのスタッフでやってるんだと思っていました」と(笑)。そんな為末さんも、前回大会から「アスリートキャスター」という形で中継に加わってくれています。技術さん含めて、もう、TBSの総力戦です。


《より生にこだわる!》

─── 為末さんは今回、「世界陸上SNS担当プロデューサー」という肩書きで、前回以上に役割・仕事量も増えているかと思います。一緒に取材に行かれたりも?

土井 一緒に行かなくても、競技場で一緒になります(笑)。やっぱり来てた、みたいな。あとこの前、取材先で為末さんに会った後、私が会社に戻ったら先に為末さんが戻ってるんですよ。「これから会議なんです」って。僕らが出ない会議に何で為末さん出てるの?と(笑)。もうTBSスタッフですよ。

初田 為末さん以外でも、朝原宣治さん、跳躍なら石塚(浩)先生、投擲だったら小山(裕三)先生と、解説陣にはいつものメンバーが集結しています。あと、前回のテグ大会から「より生にこだわる!」ということを意識して中継するようにしています。トラックとフィールドで同時並行に競技が行われていますから、例えばトラックをしっかり見せようとすると、どうしてもフィールドがおざなりになってしまう場合がある。そのため以前は、トラックを先に見せて、あとでフォールドを繋ぎ合わせてまとめてみせる、ということをやっていたんです。

土井 でもテグ大会から、なるべく生で行ったり来たりしよう、と。

初田 実際、視聴者の方からも「今、何が行われているのかがわかりやすかった」というお言葉をいただきました。なるべく今回も制作スタッフの方針としては、どんどん生で出していきましょう! ということですね。


《しゃべる側もミスがあっちゃいけません》

─── 陸上を実況する上で、特に難しい部分、聞いて欲しいところはどこですか?

初田 どの競技でも必要なんですが、特に陸上で求められるのが「集中力」。100M10秒弱の時間ですから。その間に、しゃべる側もミスがあっちゃいけませんし、見落としがあっちゃいけません。集中して、グッとのめり込んで、神経を研ぎすませたような状況で臨んでいることが多いですね。

土井 意外に思われかもしれませんが、テンポが速いんですよ。砲丸投げの場合、投げて、記録が出たら、もう次の人が構えているんです。今、何が起きていて、記録はどうスゴくて、何を解説の方に聞いて、ここだけはおさえないと、っていうのを聞くともう次の選手が投げちゃうってくらいテンポが速い。

初田 砲丸って、予選ではAとBの2つのピットがあって、それぞれで予選通過記録を目指してポンポン投げていくんです。昔、どこかの大会で画面だけがどんどん切り替っちゃって、AなんだかBなんだかっていう(笑)。

土井 一方でマラソンのような種目の場合、選手のこれまでのストーリー、どういう気持ちで走っているのかにまで切り込んでいく深い取材も必要になってくる。テンポの速いものからゆっくりとしたものまで全部揃っていて、その日何を喋るのかによっても、全くそのスタンスが変わってくるんです。

初田 確かに、そういう難しさっていうのが陸上競技にはありますね。

土井 3000M障害とかで、ケニアの選手が3人並ぶ時があるんですけど、3人のゼッケンに書かれた名前が全部「キプ〇〇」ではじまる……「キプロティッチ」「キプチョゲ」とか、キプまで一緒だからわかんない。ユニフォームが一緒で、体型も一緒で、あとはもう靴の色とかで判断するしかない。

初田 靴の“紐の色”とかね。また、3人の順位が目まぐるしく変わるんですよ。

土井 そうそう。「キプロティッチ」が前かと思ったら「キプチョゲ」が抜いていて、「いつ抜いたんだ!?」みたいな(笑)。


《頭の中、陸上のことだらけ》

─── 五輪にはない、世界陸上ならではの魅力はありますか?

初田 世界陸上は陸上だけのお祭りですからね。やっぱり、205の国と地域から、なかなか馴染みのない国の選手が100Mに出場したりするし、街が陸上一色に染まって、朝から晩まで私たちも陸上漬けの日々を送る。頭の中、陸上のことだらけですから。

土井 伝える側、見る側、どちらにとっても「陸上に専念できる」という意味での面白さはありますね。ロンドン五輪でも中継に携わらせていただいたんですが、いろいろある競技の中で陸上もある、という位置づけだと、例えば「男子走り高跳び」で今、記録が伸びている、ということはわかりにくいことだと思うんですよ。

初田 陸上だけだからこそ、そういうところにもスポットを当てられるっていうね。より深く楽しめる魅力があると思います。

─── 五輪翌年の世界陸上の傾向はありますか?

初田 やっぱり、世代交代だと思います。先ほど土井さんもいいましたけど、「4×100Mリレー」の日本の顔ぶれっていうのが、今の予定でいくと、一走が高校生、二走が大学生、三走が社会人ですけどアンカーは大学生。平均年齢で言ったら、4人で21とかそのくらいだと思うんです。ものすごく若いですよね。

土井 すっごいことですよね。あと、五輪翌年、という意味では室伏広治選手も、シドニー五輪の翌年、2001年のエドモントンの世界陸上がブレイクするキッカケでしたもんね。今までいなかった選手が急に出てくるっていうのが、五輪の翌年の世界陸上の傾向にありますよね。

初田 でもやっぱり期待するのは、ウサイン・ボルト選手に世界記録を更新して欲しい! それから、桐生選手。夢の決勝進出&夢の9秒台。そして山本聖途選手のメダル。この3点を特に楽しみにしています。

土井 陸上競技って、身体を使った、極めてシンプルなスポーツですからね。どこまで遠くに投げるか。どこまで速く走れるか。どこまで遠く、高く跳べるか。そのシンプルさと、そこに付随する奥深さみたいなものを放送の中で伝えていければいいなぁと思います。

初田 あ、思いだした。ベルギーの「4×400Mリレー」が楽しみなんですよ。ベルギーの代表選手で、双子のボルリー兄弟というのがいるんですよ。見た目もう全く一緒なんですけど、そのボルリー兄弟に弟がいることが判明して。どうやらその弟が代表に入ったらしい。

土井 となると?

初田 「4×400Mリレー」、1走ボルリー、2走ボルリー、3走違って、4走ボルリー。ボルリー三兄弟! サンボルリー。ぜひ、弟にリレーのメンバーに入ってきて欲しい! またベルギーってこの競技昔から強いんですよ。だから結構注目です、ボルリー。


「世界陸上モスクワ」
2013年8月10日(土)〜18日(日)TBS系列独占放送。
※主な競技スケジュール
8月10日(土)女子マラソン/男子100m予選/男子ハンマー投げ予選
8月11日(日)男子100m決勝/女子10000m決勝/女子棒高跳び予選
8月12日(月)女子100m決勝/男子110mH決勝/男子ハンマー投げ決勝
8月13日(火)男子400m決勝/男子800m決勝/女子棒高跳び決勝
8月15日(木)男子400mH決勝/女子1500m決勝/男子走り高跳び決勝
8月16日(金)女子200m決勝/男子走り幅跳び決勝/男子4×400m決勝
8月17日(土)男子マラソン/男子200m決勝/男子やり投げ決勝
8月18日(日)男女4×100m決勝/女子やり投げ決勝
(オグマナオト)