「自動車の都」米国デトロイト市の“破綻(はたん)”が世界中に波紋を広げている。負債総額は180億ドル(約1兆8千億円)で自治体の財政破綻としては米国史上最大だ。この騒動はアメリカの「貧富の格差拡大」の象徴であると、ブルームバーグ・ニュース・ワシントン支局の山広恒夫氏は分析する。

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 デトロイト市の財政破綻は、自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)の本社ビルを包むようにして屹立(きつりつ)する同市中心部の超高層ビル群を見る限り、想像もつかない。一方、こうした豪華な外観のビル群を取り囲むようにして、崩れかかったビルや住人のいなくなった廃屋の混在する荒涼たる市街地が広がっている。

 この強烈なコントラストはいったい何を意味するのだろうか? 謎解きを進めると、米国が直面する危機の本質が見えてくる――。

 デトロイト市は「自動車の都」から米国全土で進む「貧富の格差拡大」の象徴へと変貌を遂げたように見える。この貧富の差の拡大に、米国経済に潜む病根が凝縮されている。内国歳入省(日本の国税庁に相当)の資料によると、2010年の米国全世帯の個人所得は前の年に比べて2.3%増加したが、所得上位わずか1%の富裕世帯が全世帯の所得増加分のうち、なんと93%を占めた。一方で、全体の80%の世帯は所得の減少に見舞われているのである。

 オバマ政権による大規模財政出動と中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が続ける大規模金融緩和は、史上最悪のバブル醸成につながっていく。この資産バブル膨張の恩恵は、当然のことながら巨額の資産を保有する富裕層に集中する。しかし、このバブル膨張も、そろそろ限界に差し掛かってきた。これが破裂すれば08年のリーマン・ショックをはるかに凌ぐ経済危機がやってくる。

 政治の混迷と利益至上主義によって歪められた米国型資本主義は、一部の勝ち組への富の集中と、一般市民の困窮化を加速させた。

 デトロイト市も手をこまぬいてきたわけではない。1970年代にはGM本社ビルを中心とするオフィス街を再開発し、過去の栄光の復活を願って「ルネサンス(復興)・センター」と名付けた。しかし、こうした再開発もそこで生活する市民の目線からではなく、企業の立場から進められたため、格差社会が一段と先鋭化していくことになる。

 自動車メーカー各社は生産設備の大型化とともに、工場を拡張する必要が生じ、デトロイト市内から郊外に移転。さらにグローバリゼーションの波に乗って海外に進出している。現在、デトロイト市内で働く自動車会社の職員は2万7千人で、最盛期の10分の1程度にすぎない。同市の失業率は10%を超えている。市当局が自動車産業の変容にともなって、変化していくことを怠ったのが衰退化の最大の要因である。

 こうして職を失った市民が困窮化して、治安も悪化。身の危険を感じた中間層が郊外へと脱出していくにつれて、さらに空洞化が進む。当然のことながら市の税収は先細りとなり、治安維持費など歳出の切り詰めに追い込まれ、治安の悪化に拍車がかかるという悪循環に陥っているのである。

 こうして貧困状態に放置される市民にはアフリカン・アメリカンと呼ばれる黒人が圧倒的に多く、デトロイト市の全人口のうち86%までを黒人が占めるほどになった。こうした傾向は程度の差こそあれ全米でみられる現象だ。

週刊朝日  2013年8月16・23日号