今週はこれを読め! SF編

 今週もアンソロジーを取りあげる。そんなにアンソロジーが好きか、オレ。




 ひとくちにアンソロジーといっても色々あって、『極光星群』は年度傑作の再録、『NOVA』は新作書き下ろし、そしてこの『時を生きる種族』はテーマ・アンソロジーである。角書きは「ファンタスティック時間SF傑作選」。



 時間テーマはSFの一大カテゴリーで、翻訳ものにかぎってもこれまでに何冊ものアンソロジーが編まれている。定番を揃えた福島正実編『別世界ラプソデー』(芳賀書店)、それを再編集した『時と次元の彼方から』(講談社文庫)、新旧の傑作をヴァラエティ豊かに取りあわせた伊藤典夫・浅倉久志編『タイム・トラベラー』(新潮文庫)、そのコンセプトを後継しつつ新しめの作品をチョイスした大森望編『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』(ハヤカワ文庫SF)。



 それらと比較してこの中村アンソロジーの特徴は、ばつぐんの安定感・安心感だろう。姉妹篇とも言える『時の娘』(創元SF文庫)----こちらは「ロマンチック時間SF傑作選」と銘打たれたアンソロジー----に引きつづき、アイデアがくっきりわかりやすく、物語の運びにほとんど過不足がない、よい意味でのオールド・ファッションを選りすぐっている(まあ、翻訳権を取得せずにすむものを、という企画事情も作用しているだろうが)。



 ぼくがとくに面白く読んだのは、フリッツ・ライバー「地獄堕ちの朝」とロバート・シルヴァーバーグ「マグワンプ4」。両作品とも、平行するふたつの時間線の相克を扱っている。アイデアはオーソドックスなものだけど、それを背筋が凍るような展開へ導いていく手さばきがすばらしい。前者は、時間戦士スカウトの挿話に生々しい幻覚をかけあわせており、全篇を通して世界が歪んで見える。後者は、時間ループの結びかたにちょっと珍しいヒネリと、皮肉っぽい調子が加わっている。ちなみにライバー作品は《改変戦争(チェンジ・ウォー)》に属する。このシリーズ、もっと読んでみたい。



 マイクル・ムアコック「時を生きる種族」も鮮烈な印象の一篇。非物理的な(意識や経験を介しての)時間のコントロールが描かれる。この時間の扱いかたはたしかにニューウェイヴらしい感覚なのだが、文学的な機能としては伝統的SFガジェットとあまり変わりがない。しかし、この作品の読みどころはそこよりも、終末期の地球の寂寥なたたずまいにある。ムアコックは風景の作家であり、彼の視野(画像的想像力)はイギリスSFの大きな系譜に位置づけられるはずだ。



 T・L・シャーレッド「努力」はSF史に残る名作としてつとに知られ、SF情報誌〈ローカス〉が昨年実施したアンケートでは「20世紀ベストSFノヴェレット部門」の66位にランクされている。物語の起点は、過去のできごとを自在に撮影できる新技術だ。発明家とその相棒はこの技術を秘匿し、まず歴史スペクタクル映画の制作に乗りだす。その過程はちょっとしたプロジェクト・ストーリーなのだが、じつはその先に大きな目論見があった。ストーリーが進むにつれて浮上してくるのは、体制・権力の機密主義に対し、市民の知る自由をいかに行使すべきか(行使しうるか)の問題だ。シャーレッドがこの作品を発表したのは第二次大戦終結から間もない時期だが、その切実さはいまなお減じていない。ちなみにこの作品と同じテーマを、デーモン・ナイトが「アイ・シー・ユー」で扱っている。そちらは前述のアンソロジー『タイム・トラベラー』に収録されているので、読みくらべてみるのも一興だ。



 L・スプレイグ・ディ・キャンプ「恐竜狩り」は、軽妙なテンポのユーモアSF。こういう楽しい作品がひとつ入っていると、気持ちがホッとなる。ところで、過去への干渉は些細なことであってもバタフライ効果によって未来に大きな影響を与える----というのがSFにおける時間解釈の主流だと思うが、この作品では小さな過去改変は時間が経つにつれて「均されて」しまう。作品内の辻褄が合っていればどちらでもかまわないのだけど、アイデア分類的にちょっとユニークじゃないだろうか。



 ロバート・F・ヤング「真鍮の都」とミルドレッド・クリンガーマン「緑のベルベットの外套を買った日」はタイムトラヴェル・ロマンス。状況設定や時間を行き来する仕組みこそ異なるが、ラヴストーリーの抑揚はよく似ている。ぼくは心がすさんでいるせいか、「ふーん、たやすく恋に落ちるもんだ」と呆れるのだけど、まあ、そのほうが物語には都合がよい。両作品とも、最初の恋はキレイな想い出に終わるけれど、すぐさまほぼ同等の恋が成就してメデタシメデタシ。この"すぐさま"や"ほぼ同等"が時間SFならではの妙技でして、トキを超えてドキドキする。ヤングは『千夜一夜物語』のお伽噺モード、クリンガーマンはひそやかで雑然とした古本屋の空気を、それぞれ上手に生かしている。



 以上全7篇。うち初訳はライバーとクリンガーマンの2篇。ほかの作品は以前に読んだよというベテランSFファンも、この機会に読み返してはいかがでしょうか。時間テーマというくくりのなかで作品どうしを対照させると、あらためて気づいたり考えたりすることがあるはずだ。もちろん、初読のかたには二重丸をつけてオススメ。



(牧眞司)




『時を生きる種族 (ファンタスティック時間SF傑作選) (創元SF文庫)』
 著者:R・F・ヤング,フリッツ・ライバー他
 出版社:東京創元社
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