『Startup Communities』

写真拡大

日米の成長力格差の原因の一つが米国の開業率の高さであろう。西海岸のシリコンバレーは、幾多の盛衰を繰り返しつつも、引き続き、世界最高の創業エコシステムとして機能している。最近では、クラウド、モバイル技術を中心に、再び世界の産業革新を牽引している。

ところが、シリコンバレーのような創業エコシステムは、実は全米各地に存在しているのだ。その1つ、ロッキー山脈の麓にある風光明媚な大学都市ボウルダーに、「テックスター」(「TechStars」)という開放型の創業支援ファンドが設立され、様々な関係者が集うことで、全米有数の創業コミュニティが形成されている。『Startup Communities (スタートアップ・コミュニティーズ)』(ブラッド・フェルド、出版社John Wiley & Sons, Inc.)は、このボウルダーの創業関係者が、彼らの活動の実態と成功の秘訣を率直に語ったものである。

鍵はまず継続性、そしてリーダー達の熱意

本書の前半部分は、創業コミュニティを成功させるための主要な構成要素についての説明である。著者が強調しているのは、コミュニティ活動の中心を政府や投資家ではなく「起業家」自身が担うこと、また、他者を排除せずに、「利他主義」(「give before you get」)の原則で事業を運営することなど。本書の後半部分では、ボウルダーにおける様々な起業関係の活動実態が具体的に述べられている。早朝のカフェでの集会、週末を使ったビジネスコンテストなどなど、さほど独創的ではないが、自発的で目的意識の高い活動が繰り広げられている。そこでの鍵は、まず継続性、そしてリーダー達の熱意である。

本書では、政府の役割が限定的であることが強調されている。我が国は、ともすれば中央政府がシナリオを描いて、官主導で成長戦略を進めるのに対し、米国は、徹頭徹尾、民間(起業家)主導、そして地方主導である。歴史的・地理的経緯が異なる両国を単純比較はできないが、こと創業の促進に関しては、米国流に血気盛んな起業家が輩出されないことにはお話にならない。そして、その流れを牽引するのが、実は「先輩経営者」や起業ビジネスであるわけだ。

ボウルダーの成功体験に触発され、各地で取り組み

幾つかのアドバイスやコメントが面白い。例えば、大学やベンチャーキャピタルを誘致することで「シリコンバレー」を形から真似すると必ず失敗するということ。起業家や投資家の内発的な相互作用を人工的に作りだすことは不可能だからである。あるいは、ボウルダーにも弱点があって、小都市であるにも関わらず、創業コミュニティがIT、自然食品、バイオ、新エネ、ロハスと5業種に分裂しており、相互交流が弱いのだそうだ。また、女性起業家や女性技術者の比率が低く、彼女たちをインボルブさせる仕組みが脆弱であることなど。縦割り社会や男性社会の弊害は、日本の専売特許ではないようだ。

本書の欠点は、内容に繰り返しが多く、ややマニュアル的なところだが、それでも長年に亘って米国の片田舎で創業活動にいそしんできた実践者たちが語る言葉は十分に重みがある。ボウルダーの成功体験に触発されて、全米各地、あるいは世界各地で、起業家主導の創業コミュニティづくりが始まっている。閉塞感の高い我が国の地域経済を何とか活性化させたいと考えておられる各地の若手経営者の方にとって、米国ロッキー山脈の麓の町の成功談は一聴の価値があると思う。

経済官庁(審議官級)パディントン