妻が夫を殴ったり、刃物を振り回したりし、「バカ野郎!死ね!!」などと罵倒して夫を追い込むDV(ドメスティック・バイオレンス)が増えている。県によっては夫を一時避難させるシェルターを確保するところまで現れた。

神奈川県では2013年7月16日、夫の頭をノートパソコンで叩いたり、パソコンを投げつけ意識不明の重体にさせた妻が逮捕された。なぜ妻から夫へのDVが増えているのか。

妻と姑から「役立たず、ごくつぶし、働け!」

神奈川県の事件は妻(38)が無職の夫(42)に清涼飲料水の名前を教えて買ってくるように頼んだが、夫は売っていなかったとして購入しなかった。腹を立てた妻がノートパソコンで夫の頭を数回たたいたうえ、パソコンを投げつけた。夫は急性硬膜下血腫などで意識不明の重体となった。この事件は妻が119番したことで明らかになったと報じられた。

このところ妻が夫にDVを働いたというニュースが相次いでいる。また、交際している男性に女性がDVを働く「デートDV」も増えている。

内閣府の「配偶者暴力相談支援センター」に寄せられたDVに関する相談件数の推移を見ると、2002年度が3万5943件だったのに対し、08年度が6万8196件、11年度が8万2099件。男性からの相談件数は02年度が全体の0.4%で、08年度は0.8%、11年度は1.2%と増え続けているのだ。

妻は夫にどんなDVを働くのか。2013年に新聞報道されたケースを見てみると、殴る蹴るだけではない。刃物を振り回す、自宅に火を付ける、「バカ野郎!死ね!!」と毎日罵倒したりするのだ。夫が実家に電話しただけなのに「私のことを告げ口しただろ」と携帯電話を壊した例もある。20歳の無職の夫は妻と姑から「役立たず、ごくつぶし、働け!」と毎日のようになじられ鬱病になった、などというものもあった。

こうした夫を救うためのシェルターを確保したという県も現れた。一時的にかくまって妻から引き離そうという狙いがある。もともとこうしたシェルターは女性用で、DVに耐えられなくなって逃げた妻を夫が追っていくというケースを想定したものだ。

大分県では12年4月から男性用シェルターを設ける

大分県では12年4月から男性用シェルターを設けた。まだ利用者はいないが大分県によれば、

「定職を持っている男性は妻に内緒で通勤可能な場所にアパートを借りて生活することもできるが、相談者の中には妻から逃げるためのお金が無い、と訴える人がいた。そうした男性のためシェルターを確保しておくことが必要だ」

と説明した。

DVやひきこもりなどさまざまな家族問題を援助している「日本家族再生センター」の味沢道明さんによれば、妻が夫にDVを働くことの増加と、女性が経済的、社会的地位が向上したこととは比例しているという。

女性が社会で活躍するのは望ましいことなのだが、その余波が家庭にも入ってしまった。

妻がDVを働くまでの一つのパターンはこんな具合だ。

妻が夫に対してきつく意見を言ったり指示をしたりする。それに夫が腹を立て喧嘩がヒートアップし、妻の感情が不安定になり暴走し、夫に対する一方的なDVが起きる、といったものだ。

また夫が妻のDVについて相談することが多くなったのは、これまでの「妻から一方的に暴力や罵声を浴びせられるのは男としてみっともない」という感情が変わり、苦痛を受けたならば相談したい、傷害が起こったならば被害届を提出したい、という意識が高まっている。妻から夫へのDVはこれからも増えていくだろうとし、

「DVの場合は一人で解決するというのは難しい事案のため、勇気を持って自治体の相談室や、専門家の元を訪れることをお勧めします」

と味沢さんはアドバイスしている。