1号店の概観(移転後のもの)【撮影/金伸行】

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お金儲けの神様「邱永漢」人生最後の弟子で、2005年より中国四川省成都に在住。日本生まれの韓国人で、現在はグループ会社3社の社長兼取締役を勤める金さんと、焼肉店「牛牛福」との9年間にわたる格闘の日々の記録。第6回は開店日前日のドタバタからどうにか感動のオープンへ。大盛況のオープン3日後から一転、客がまったく来ない事態に……。

第1回「邱永漢氏に出会い、現職を投げ打って成都行きを決めるまで」はこちら

第2回「ホテル事業を夢見て成都に渡った3日後に告げられた事実とは」はこちら

第3回「焼肉店改行準備で体験した、パソコン購入のための中国式交渉術」はこちら

第4回「開店に向けての市場分析と、人事・料理長・店長の人事問題」はこちら

第5回「事業立ち上げで直面したワイロ大国の実態」はこちら


 焼肉屋をオープンするにあたり、お客さまに心地よく過ごしていただくためのサービスにはとくにこだわっていました。

 私は一時ヒルトンホテルで働いたことがあり、そこにはサービスのプロが集まっていました。ゲストが好む新聞から朝食に飲むドリンクの種類、灰皿をテーブルのどこに置けばお客さまがいちばん使いやすいか、また美しく見えるかなど、彼らはお客さまに喜んでいただくためにあらゆることを考えます。

中国で「感動のサービス」を実現するには

 驚いたのは、受付ロビーにある大きな大理石の灰皿の位置について先輩に教えられたときでした。

「金さんね、このロビーは合計52枚の大理石のパネルがあります。だから、大理石13枚ごとにこの大きな灰皿を置くと均一で綺麗に見えますから、もしずれていたら気をつけてください。あと、受付デスクの上にあるゲストが使うボールペンは、左右からみてちょうど45度の角度にスタンドを調整すると遠くからでもとても美しく見えますから、気がついたときに直してくださいね」

 美しく見えるということについてここまで考え計算しているのか、と感動を覚えました。ファイブスターホテルのサービスは、こんな些細な例では説明しつくせないほどよく考えられていました。

 この経験から、実家の焼肉屋のスローガンは「さりげなく過剰なサービス」にしました。お客さまにはあくまで自然に、さりげなく、かつ期待以上の内容を提供する。これが、お客さまの感動を呼ぶのです。

 このような経験から、私は「サービス発展途上国」の中国で、私が経験した水準のサービスを提供できたらすごい競争力になる、というよりも、私がここに来た意義のひとつが中国でお客さまが感動するようなサービスを提供することにあると、やる気満々でした。

 2週間のトレーニングを終え、オープンを控えた前日、期待に胸を膨らませてすべての従業員のサービスレベルのチェックを行ないました。

 現場の状態を模倣したテーブルをセットし、本番さながらのテストでした。お茶を注ぐタイミング、注文をとるスピードなどの基本技術をチェックするかたわら、「おしぼりが臭うんですけど」「牛肉はどこから来てるの?」といった柔軟性を試すための突発的な質問を浴びせました。

 その結果……
「おしぼりが臭い? そんな馬鹿な! ありえません」
「牛肉がどこから来てるかなんて知りません。店長に言ってはいけないと言われています」

 感動のサービスとは程遠い現実を目の当たりにして、またまた頭を抱えてしまったのでした。2週間もトレーニングをして、まさかこの程度とは……。しかも、明日はオープンなのに。

 失望で肩を落として帰宅すると、すでに夜の11時半でした。そして深夜12時ごろ、店長から1本の電話がありました。

「社長すみません。たった今、従業員が8人同時に辞めました……」

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