ブラジルで「反サッカーデモ」?何が起きているのか?【ビジネス塾】


ブラジルで6月末、大規模な反政府デモが起きた。デモの参加者は、政府の汚職を批判することと併せ、サッカーのコンフェデ杯開催のための予算を社会福祉に振り向けることを求めたようだ。

もちろん、ブラジル国民が急に「サッカー嫌い」になったわけではない。試合の時間になると、デモ隊はすっかりいなくなっていたという報道もある。

それにしても、「サッカー王国」と呼ばれるブラジルで、国際大会の開催に反対するデモが起ころうとは、誰が予想しただろうか。何が起こっているのだろうか?
■きっかけはバス料金の値上げ
ブラジルのデモのきっかけは、サンパウロなどの都市でバス料金が値上げされたことだ。このような公共料金にとどまらず、ブラジルでは2011年以来、消費者物価指数の上昇が目立っていた。2012年にはやや落ち着く気配を見せたが、今年に入って再度、月6%を超える状況が続いていた。

ブラジルでは1990年代に1000%以上というハイパーインフレを経験している。勤労者の給料は日払い、しかも1日に2回に分けて払われたほどだ。国民の多くもこの悪夢の記憶があり、インフレには敏感なのである。

ブラジルのような新興国では、物価上昇を抑えるために政府が補助金を支出する。バス料金の値上げへの反発は、直接にはこのような措置を求めたものと理解できる。

■不景気なのに金利引き上げ
慢性的なインフレに、国民がしびれを切らせたというだけではない。

ブラジルでは昨年あたりから景気後退が鮮明になってきており、スタグフレーション(不景気下でのインフレ)ともいうべき状況になりつつあるからだ。物価が多少上がっても、景気が良く、勤労者の賃金も上がっていれば誰も不満は抱かない。ところが、この景気が怪しくなる一方で物価上昇は続いているという困った状況なのだ。

これに対応するため、ブラジルの中央銀行は3回連続で金融引き締め策を取り、7.25%の政策金利は8.5%になった。通常、不景気になると政策金利を引き下げるものなのだが、逆に引き上げるほどに、「インフレ退治」が課題になっているということだ。

■資金流出にも対応迫られる
金利引き上げの理由は、インフレ対策だけではない。ブラジルだけではなく、新興国にほぼ共通した問題なのだが、5月末以来増加した資金流出を防ぐという狙いもある。

リーマン・ショック後、先進諸国が大規模な金融緩和策を行ったことで、マネーが経済成長を続けていた新興国に流れ込んだ。とくに、ブラジルはワールド杯開催によるインフラ需要があり、緩和マネーの絶好の投資先だった。リーマン・ショック後の5年間で、ブラジルなど中南米諸国の金融市場には4000億ドルもの資金が流入したと言われる。2011年頃までのブラジルのインフレは、こうした資金の流入と景気過熱によって引き起こされた。G20などの国際会議で、ブラジルが先進国の金融緩和を批判してきたのは、以上のような理由からだ。

様相が変わってきたのは、2012年頃からである。歴史的に関係の深い欧州の景気後退の影響もあって、ブラジル経済に陰りが見え始めると、流れ込んでいた資金が逆流し始めた。今年5月末に米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が「出口」に言及すると、流出はさらに進んだ。

資金が国外に流出するとき、多くは「レアル売り・ドル買い」が起きる。ブラジルの通貨であるレアルは売られるので下落する。するとブラジルにとっては、輸入品が割高になってしまう。現在、日本でガソリンが高止まりしていることと同じである。併せて、流入した資金で経済活動を行っていた企業は資金繰りに困るので、景気は後退する。

現在のブラジルのインフレは、通貨下落によって引き起こされている要素が強い。ゆえに、中央銀行は資金流出を防ぐための金利引き上げを行った。併せて、外国人投資家の債券投資にかける金融取引税(IOF)を撤廃することで、投資家の資金流入を図ろうともしている。

■大事には至らない公算
デモの背景は、以上のようなものだ。

では、ブラジルもエジプトのような混乱に陥るのかというと、そうはならないと思われる。まず、ブラジルは中東諸国のような独裁政権ではないし、宗教的な結社が大きな影響力を持っているわけでもない。よく言われるように、「経済成長のひずみ」が噴出したもので、早晩、落ち着くだろう。

また、世界経済に負の影響を与えないよう、FRBも慎重に「出口」を進めることが肝心だ。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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