芥川賞作家も参戦、第1回「書き出し小説大賞」決まる

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」「今日ママンが死んだ」――文学史上に残る、書き出しの名文というものがあります。では、これは誰の小説の書き出しでしょうか?

「砂時計の中に、一匹の蟻が閉じ込められていた」

 安部公房?カフカ?

 実はこの小説に続きはありません。書き出しだけで成立した「書き出し小説」というミニマムな文学なのです。作者は書き出し作家の赤嶺総理さん。続きは勝手に妄想してください。

 去る2013年6月30日、栄えある「第1回・書き出し小説大賞(ナオタガワ賞)」が決定すると聞き、授賞式を取材に伺いました(ニフティが運営する東京カルチャーカルチャー@お台場 http://tcc.nifty.com/)。

「書き出し小説」を発案したのは、『バカドリル』『バカはサイレンで泣く』などでおなじみ、投稿マエストロの天久聖一さん。2012年11月にウェブサイト・デイリーポータルZ で「書き出し小説大賞」の連載を始めて以来、投稿総数は1万7000作にものぼるとか。現在もデイリーポータルZで連載を継続中、投稿受付中です(http://portal.nifty.com/kiji/130711161129_1.htm)。

 連載では毎回、フリースタイルの「自由部門」とお題が与えられる「規定部門」の秀作を天久さんが選ぶのですが、そのなかから選りすぐられた60作が今回の大賞候補です。

◆「凡コパ夫」さんの正体は……

 白樺派っぽい音楽が流れるなか、劇団野鳩の佐伯さち子さんが候補作を朗読していきます。書き出し作家たちもひそんでいる会場は、笑いのツボがいささか変。

 審査員は天久聖一さんのほか、デイリーポータルZの林雄司さん、マンガ家・エッセイストのしまおまほさん、ライター・映像作家の大北栄人さんという豪華メンツです。

 候補作をいくつかご紹介しましょう。

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<モチーフ/アイドル>

あの娘が一日署長になるという記事は、僕に自首を決意させた。
(作・TOKUNAGA)

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<モチーフ/無職>

『酸素を二酸化炭素にする仕事』 自分の今の仕事をそう説明すると、
大抵の人は僕が科学メーカーに勤めているのだと勘違いする。
(作・あさせがわ)

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<自由部門>

大きくひしゃげた眼鏡を、だが男はいつものように中指で持ち上げた。
(作・凡コパ夫)

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 ここで客席からスペシャルゲストが登場。なんと芥川賞作家の長嶋有さんです。実は上記の「凡コパ夫」として、こっそり投稿していたのです。しかも入選を知ったのは、ペンネームで気づいた文芸誌編集者からのメールだったとか。

「『あれ、まさか長嶋さんじゃないですよね?』と。ウソ!?って驚いてサイトを見たら入選してて……大江健三郎賞から約6年ぶりの賞です。舞い上がってTwitterで速報を出しちゃいました」(長嶋)

 作品は「だが」の位置がさすが玄人。正体を知らずに選んだ天久さんは、「あ〜、選んどいてよかった(笑)」。長嶋さんが亡くなったら、「僕の墓碑にこの作品を彫ってください」とのことです。

⇒【後編】「各審査員の個人賞、大賞の発表」に続く http://joshi-spa.jp/23731

<TEXT/志賀むつみ 女子SPA!編集部 PHOTO/難波雄史>