今週はこれを読め! SF編

 ファンのあいだで「題名が覚えられない本、ちょっと多くね?」と評判の創元SF文庫だが、なかでも困るのが《年刊日本SF傑作選》シリーズである。ここで問題「既刊の6冊、刊行順に正しく題名を並べよ」――答えられたら自慢していい。ぼくには無理だ。

 というわけで、最新刊『極光星群』である。2012年に発表された日本SF短篇のうちから11篇を選りすぐり、そこに第4回創元SF短編賞受賞作を加え、つごう12篇の編成である。巻末の「推薦作リスト」を見ればわかるとおり、ふたりの編者はSFを広義にとらえており、ファンタスティック(もしくはスペキュラティヴ)な要素・技法を備えていれば範囲内という姿勢。このへんは往年の名SFアンソロジストであるジュディス・メリルを踏襲している。とはいえ、メリルのころ(1950年代中期〜60年代後期)と現在とでは状況がだいぶ違う。もはやSF的な発想はあまねく世に浸透し、裾野がずいぶん広がっている。おそらくそれを意識してだろう、本書の収録作選定は(あえて)ややSFプロパーへと寄せているようだ。

 いま言った「SFプロパー」とは作者のことではなく、あくまで作品そのものの質だ。たとえば乾緑郎や山口雅也はミステリで有名だが、ここに収められた作品はSF専門誌に掲載されても、まったく違和感なく読める。乾「機巧のイヴ」は、タイトルが示すとおりヴィリエ・ド・リラダンの古典を本歌取りし、メカニズムと魂の存在を主題化してみせる。山口「群れ」は行動心理学的なアイデアをロッド・サーリング的な奇妙な味で展開しながら、最後の最後で戦慄のSF的(E・F・ラッセル?)ヴィジョンを呼びこむ。

 會川昇はベテラン脚本家で、本書に選ばれた「無情のうた 『UN-GO』第二話」もTVアニメのシナリオ。坂口安吾の時代ミステリが原作だが、舞台となる世界の異様さが際立っている。簡単に言えばウィリアム・ギブスン以降の汚濁の近未来だが、そこに(おそらく安吾由来の)レトロな風情と、現代のアキバ的な習俗が混淆している。

 西崎憲は既成の小説ジャンルで分類しきれぬ作家だ。「奴隷」は、外形的には沼正三『家畜人ヤプー』一歩手前のような異常な階級社会を描いているが、視点の置きかたや語りかたはディストピアSFでも文明批判でもない。脂気のない谷崎潤一郎とでも言おうか、かすかな虚無感がまじる耽美性とでも言おうか。この作品と円城塔のメタ小説「内在天文学」が、(それぞれ方向はまったく違うけれど)いちばんオーソドックスなSFから遠いところだろう。それに次ぐのが、平方イコルスンのブラックユーモア漫画「とっておきの脇差」なのだが、日下三蔵によれば〔平方作品としては比較的ストレートなSF〕とのこと。ほかの作品はどんなのだろう。

 もっともオーソドックスというかハードコアなのが、創元SF短編賞受賞作の宮西建礼「銀河風帆走」。AI探査機を主人公にしたイングリス「夜のオデッセイ」ばりの宇宙SFで、細部には新しい意匠が凝らされているが、骨格はオールドファッションで懐かしい。

 一方、とうに使い古されたかに思えた未来予測テーマに新機軸を打ち立てたのが、瀬名秀明「Wonderful World」だ。ミクロシステムである人間とマクロ社会である未来とをつなぐ鍵が「倫理」であり、それは統計的な数理モデルとして扱うことができる。これが事実として証明されたとき、いまを生きている人間はどう反応するか。

 SF的アイデアや展開の妙もさることながらイメージの鮮烈さが光る作品が三篇。上田早夕里「氷波(ひょうは)」は、土星の輪がうねるさまを〈音〉として捉える。瀬尾つかさ「ウェイブスウィード」は、異形化した未来の地球で、海棲生態系が凶暴な花を咲かせる。高野史緒「百万本の薔薇」はミステリ仕立てのソ連裏面史だが、解けない謎(もしくはズレた現実)とそれに寄りそってあらわれる赤いバラが印象的だ。

 ぼくがいちばん面白く読んだのは、宮内悠介「星間野球」。宇宙ステーションのなかで野球盤ゲームに夢中になる男ふたりという、はたからみれば間抜けなシチュエーションだが、真剣にルールの隙を突いたり裏をかいたりしながらストーリーがつくられる。ちょっと福本伸行『カイジ』を思わせる(あんなに悲惨ではないが)。

 さて、あなたはどの作品が気に入るだろうか? 

(牧眞司)



『極光星群 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)』
 著者:
 出版社:東京創元社
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