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生物学とエレクトロニクスの進歩は、これまでになかった人工器官を生み出しつつある。3Dプリンターを使って生きた細胞を立体的に配列させる研究は、富山大学などを始めとして、多くの研究室が進めている。また、ハーバード大学の研究チームは、ナノスケールの電線で作った三次元の構造をヒトの組織に埋め込み、エレクトロニクスと生体組織を融合させることに成功している。

そして2013年5月、プリンストン大学のMichael McAlpine博士らの研究チームが発表したのは、3Dプリンターを利用した、いわば「サイボーグ耳」だ。研究チームは、市販されている3Dプリンターを使って、軟骨細胞とナノ粒子、シリコンをプリントし、「耳」を作っていった。サイボーグ耳には小さなコイルアンテナが埋め込まれているが、これは銀のナノ粒子でできており、やはり3Dプリンターでプリントされている。

このサイボーグ耳が受信するのは電波だが、研究チームは今後、感圧式の導電センサーなどを使うことで普通の(人間の可聴領域の)音を認識できるよう改良していく計画だ。McAlpine博士によれば、将来的にはサイボーグ耳を患者の神経に接続して聴覚を再生させるだけでなく、普通の人間よりもすぐれた聴覚を持たせられる可能性もあるという。

SFに出てくるようなサイボーグが登場するにはまだ時間がかかりそうだが、生体組織とエレクトロニクスの融合は、医療分野に大きな変革をもたらすことになりそうだ。

(文/山路達也)

記事提供:テレスコープマガジン