「また君に会えて、本当に嬉しかったんだ」(コスプレイヤー=Akuna 撮影=arisa)

写真拡大

秋葉原駅を取り囲んだオトメたち

先月、秋葉原で奇妙な光景を見ました。朝7時ごろ、JR秋葉原駅をぐるりと取り囲むように人が並んでいるのです。電気街口の近くの店舗で早朝に販売される商品を目当てに、その店の前から最後尾は中央口のヨドバシカメラ前まで1500人ほどの列ができました。

店前に長い待機列が出来るのは、秋葉原では特に珍しくもない光景ですが、今回はいつもと少し違う。待機列に並んでいるのは、女性ばかり。秋葉原と言えば、男性の街という印象が強いだけあって、女性ばかりの長蛇の列は、とても特異な光景でした。

彼女たちの目当ては、会場限定のキャラクターグッズが当たる1回600円のくじでした。1人5回までと制限されていたので、女の子たちは3000円を握りしめて列に並んでいるのです。そのキャラクターは、「乙女ゲーム」と呼ばれるある女性向け恋愛シミュレーションゲームに登場する美少年たちです。

「乙女ゲーム」では、プレーヤーは女性主人公になりきって、ゲーム中に登場する美少年たちと仲良くなれます。人気タイトルは、アニメ化され、多種類のキャラクターグッズも販売されます。「乙女ゲーム」のキャラクターを演じる声優が出演するイベントには、人気アイドルさながらに多くのオトメたちを集めています。

女性向けである「乙女ゲーム」に対して、当然、男性向けの恋愛シミュレーションゲームもあり、多数の美少女が登場することから「美少女ゲーム」と呼ばれています。1990年代に秋葉原でパソコンブームが起こった際、パソコン用ゲームソフトで、アダルト向けのゲームが出始めました。そのアダルトゲームから、画像の質が向上し、ストーリー性のある高度な作品まで昇華された、「美少女ゲーム」と呼ばれるものが現れました。秋葉原のメイドカフェやコスプレ系飲食店も、元は「美少女ゲーム」の販促イベントから派生したもので、今の秋葉原のイメージは「美少女ゲーム」の勃興と深く関わっているのです。

■市場を育てるオトメの過激な想像力

ところが最近、「美少女ゲーム」の市場は急激に縮小しています。10年前をピークに毎年売上額は減少し、2011年では243億円とピーク時の半分以下の市場規模になっています。それに対して「乙女ゲーム」の市場規模は、146億円とまだ「美少女ゲーム」には追い付いていないにせよ、前年比30%増と年々その規模を拡大させています。

なぜ男性向けの「美少女ゲーム」の売り上げが落ち込み、女性向けの「乙女ゲーム」はこれほど勢い付いているのでしょうか。

「美少女ゲーム」と「乙女ゲーム」の大きな違いは、男性と女性の想像力の差に基づいていると私は感じています。男性よりも女性の方が想像力が豊かであり、想像力を働かせて楽しむことができるように思えます。

たとえば、「美少女ゲーム」にも「乙女ゲーム」にも、イベントシーンとよばれる場面が途中に入ります。いわゆる物語の見せ場です。「美少女ゲーム」では、大概、登場キャラクターとの性行為がイベントシーンになります。それに対して「乙女ゲーム」では、登場キャラクターとの心理的接近を印象付けるシチュエーションのみが表現されます。

男性の場合、想像力を働かさなくてもよいストレートな表現を好むため、どうしても「美少女ゲーム」はアダルトソフトの枠から抜け出られなくなります。実際、「美少女ゲーム」はアダルトビデオと同じ流通網で販売されます。多くの人の目に触れる一般家庭用ゲームソフトとして流通されるには、アダルト部分をカットした再編集版を制作することになるのですが、そうすると多くのイベントシーンが抜け落ちた別作品になってしまいます。

ところが女性の場合、想像をかきたてるシチュエーションを重視するので、作品の表現の幅もかなり広がります。露骨な性表現に拒否反応を示すユーザーも多いので、アダルトゲームになりにくく、最初から一般家庭用ゲームソフトとして流通できます。実際の内容は「美少女ゲーム」より過激であっても、想像力を駆使して「分かる人にだけ分かる」表現がされるので、規制の対象にもなりにくいのです。

私は「美少女ゲーム」の市場拡大には限界があり、「乙女ゲーム」には大きな可能性があると感じています。かつて「美少女ゲーム」を求める男たちが秋葉原に集まったように、これからは、「乙女ゲーム」を求めるオトメたちが秋葉原に集まるように手を打っていかなければと考えています。

一般にオタク男子が集まるところが秋葉原だとすれば、オタク女子が集まるところは池袋だと言われています。そうすると、秋葉原に「乙女ゲーム」が好きなオトメたちが集まるのは、一時的な現象にすぎないのでしょうか。

次週の後編では、池袋と秋葉原に集まるオタク女子の違いと、住み分けの可能性について述べてみます。

(梅本 克=文(デジタルハリウッド大学客員准教授))