とにかく物腰が柔らかく、優しいオーラ全開の佐藤公哉選手。理想のドライバーはルイス・ハミルトン

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遠くヨーロッパの地で『君が代』を響かせるひとりの日本人ドライバーがいる。

その名は佐藤公哉(きみや)。今年からGP2などと並び、F1への登竜門のひとつとされるフォーミュラカーレース「AUTO GP」にフル参戦し、現在、ポイントランキングトップをひた走る。

その“快進撃”開幕戦からだった。2回目の決勝「レース2」でいきなりトップチェッカー! その後も、第3戦、第4戦で表彰台のど真ん中に立ち、異国のサーキットを日本の国歌で包んだ。

ホンダのF1復帰は発表されたものの、小林可夢偉(かむい)がF1シートを失い、「日本人ドライバーは当分おあずけ……?」という空気のなかに現れた“ひとすじの希望”。

週プレはそんな佐藤選手を緊急インタビュー。日本ではなくヨーロッパでレースをする理由、夢であるF1について聞いた。

−まずはシルバーストーンでの優勝おめでとうございます! 第4戦を終えて3度の優勝。この結果は予想していたもの?

佐藤 ありがとうございます。昨年末にあったテストで、すごくいい結果で終わることができたんです。ただ、今年は天候が不安定で、豪雪でまったく練習できないまま開幕戦を迎えてしまったんですね。自信はあったんですけど、不安も大きくて……という感じです。

−プレッシャーも大きかった?

佐藤 開幕戦は一番緊張しました。初めて速度の出るビッグフォーミュラだったので。

−最高速はどのくらい出る?

佐藤 そうですね、長いストレートのあるモンツァで、320キロぐらい出ます。


−えー! F1でも350キロくらいだから、けっこう速い!

佐藤 あと、F1や一般自動車のようにパワステ(パワーステアリング)がついてないので、ハンドルはすごく重い。コーナーでの速度も速いので、体にものすごいGがかかって腕も首も疲れます。

−そりゃ、ある意味F1よりも過酷なカテゴリーかも……。F3から移って最初に乗った感想は?

佐藤 シンプルに「すごい加速だな」と感じました。F3は220馬力くらいですが、AUTO GPは550馬力もあるので全然違います(ちなみにF1は750馬力くらい)。

−所属する「ユーロノヴァ・レーシング」の設立者のひとりは、元F1ドライバーの井上隆智穂(たかちほ)さんですが、AUTO GPの第3戦があったハンガロリンクといえば、あの伝説の事故(出火したエンジンに井上氏自ら消火器を噴射しようとした瞬間、救助に来たメディカルカーにはねられるというF1史に残る珍事)があった場所。そこで優勝したわけですから、井上さんも喜んでいたんじゃ?

佐藤 はい。表彰台からは泣いているように見えました。

−そして、次戦のシルバーストーンでも優勝し、現在ランキングトップです!

佐藤 井上さんからも「今年はどんなことがあってもタイトルを獲らないと」と言われていたので、正直、驚きもなくて、意外と落ち着いているんです。まだ後半戦が残っていますし、今はチームから出た指示をミスなく淡々とこなし、勝てるレースはちゃんと勝つことを心がけています。でも、チームのほうが驚いているみたいで、特にチーム代表のヴィンセント・ソスピリに「おまえがこんなところまでいくとは思わなかった」とか言われました(苦笑)。

−佐藤選手は2006年のフォーミュラデビュー後、活動の場は大半がヨーロッパ。それはなぜ?

佐藤 気持ち的にもヨーロッパのレース環境が合っているというのと、ドライバーの層的にも“超人”が多いことです。実際、フォーミュラBMWで戦った2年間にもとんでもないヤツが何人かいて、そういうヤツらと戦ったら自分も超人に近づくんじゃないかと思って、11年に日本からヨーロッパに戻ってF3をやっていました。

−言葉も環境も異なる異国の地でのレース。苦労もある?

佐藤 アジア人のほうが劣等というか、遅れているという目で見られることが多くて、そこがツライですね。イギリスでレースしていたときも、「あんな日本人に負けるな」とか陰口を誰かが言っていたと聞くこともありましたし。劣等感みたいなのは何回も感じたことがありますね。今のチームではそうしたことはありませんけど。

−そりゃツライ……。

佐藤 自分がイギリス人だったらとか、イタリア人だったらどれだけよかったかって常に考えてましたし、今でもそう考えます。人種のカベって永遠になくならないと思うんです。どれだけレースで勝っても、ずっと悩み続けることだと思っています。

−当面の目標はシリーズチャンピオンだと思いますが、その次はF1?

佐藤 はい。夢はF1にいって“成功”することです。F1を見てレースを始めたいと思ったので、そこで走りたい気持ちは強いです。

−“成功”とは何を指して?

佐藤 日本人では鈴木亜久里(あぐり)さん、佐藤琢磨(たくま)さん、小林可夢偉さんがすでにF1で表彰台を獲得しています。僕が目指しているのは、トップチームに乗って、年間通してのシリーズランキングで、日本人初、アジア人初という結果を残すこと。それが成功です。そのためにはヨーロッパで生活して、ヨーロッパのものを食べて、ヨーロッパでトレーニングして、F1に後々いくであろう超人たちと一緒にレースをすることが大事だと思っています。

−最後に週プレ読者にひと言!

佐藤 まだまだ無名の日本人ドライバーですけど、次戦のムジェロで頑張って、ヨーロッパでまた『君が代』を響かせたいと思っています。応援よろしくお願いします!

(取材・文/川崎貴久、撮影/池之平昌信)

●佐藤公哉(さとう・きみや)


1989年生まれ、兵庫県神戸市出身。5歳からカートを始める。2006年にフォーミュラBMWイギリスシリーズでフォーミュラカーデビュー。08年から日本のF3などに参戦するが、11年から再びヨーロッパへ。13年よりAuto GPにユーロノヴァ・レーシングからフル参戦。現在、ランキングトップ。ツイッターアカウントは【@Almakimiya】