グローバル人材の重要性を強調する一方で追いつかない企業の体制

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人材採用コンサルティング会社「ジョブウェブ」は2013年7月4日、2014年新卒の採用活動を行う137社に対する意識調査の結果を公表した。一括採用に賛成する企業は全体の64.9%にのぼり、通年採用賛成の24.8%を大幅に上回った。

一括採用支持派は、多くが「効率的に優れた人材を確保できる」との理由だ。また新卒採用の目的として4割超が「将来の幹部候補の育成」を挙げた。

だが企業側のもくろみとは裏腹に、一括採用システムの「レール」に乗り切れず不利益を被る学生も出てくる。ひとつの例が外国人留学生と、日本人の海外留学経験者だ。企業にとっては将来のグローバル化を支える人材として期待できそうなこれらの学生が、実は就活や学生生活でハンデを背負わされる状況になっている。

海外の学生は30代前半でキャリア確立する計画

J-CASTニュース会社ウォッチ編集部は、一橋大学国際教育センター・太田浩教授に現状の問題点を取材した。

まずは外国人留学生の場合。就活は近年、早期化と長期化の傾向が顕著だ。その一方で、学生たちが環境に適応しつつ大学の授業を完全に理解し課題もこなせるようになるには、一定の日本語力を身につけていたとしても最初の2年はかかるそうだ。特に非漢字圏から来た留学生には厳しい状況だ。

「3年生になって本腰で勉強に専念したと思ったら就活の準備が始まってしまう。修士課程なら、1年生の第2学期(秋)が始まったと思ったらもう就活の準備です」

年に1回、しかも一括で採用というシステムは外国人留学生にとって驚きだ。海外の学生は、さまざまな経験を積んで30代前半でキャリアを確立する長期的なプランを立てるのが一般的だからだ。

経団連の米倉弘昌会長は7月8日、大学生の就活について企業説明会の開始時期を3年生の12月から3月に、選考開始を4年生の4月から8月に、それぞれ「繰り下げ」の方針を明らかにした。それでも太田教授は、この程度の措置では「焼け石に水」だと懐疑的だ。

また日本人の海外留学経験者も、現状の就活システムがデメリットになる面が多い。特に問題になるのが留学時期だ。例えば大学の交換留学制度を利用して米国で学ぼうとすると、行き先の学年暦に合わせて3年生の9月から翌年の夏までというのが典型的。これでは帰国後に就活を始めても、完全に出遅れてしまう。

留学期間中に一時帰国して就活に励む現状

最近では、留学先の学期によっては「春学期」にあたる1月に渡航し、夏休みをはさんで9月からの「秋学期」を受けて12月に帰国というパターンもあるという。学期間の夏休みは「一時帰国して、日本で就活に励むのです」(太田教授)。

これなら日程上、就活開始に乗り遅れることはなさそうだが、腰を据えて留学先で勉強というのも心理的に難しそうだ。結局学生は、「就活で不利になる」と覚悟を決めて海外に渡るか、就活時期と重ならない2年生の時にトライするような判断を迫られる。ただし、2年生で交換留学できる大学は少なく、それまでに留学できるだけの語学力を身につけられる学生も少ない。

たった1度きりの「新卒一括採用」のタイミングを逃せば、いくら留学を経験して異文化理解力があると訴えても企業には届かない。結局、就活が足かせとなって「留学が学生時代における活動の選択肢に入らなくなっている」と太田教授は話す。

一部の経営トップがグローバル化、グローバル人材の育成を声高に叫ぶ一方で、6〜7割の企業が新卒の選考過程で留学経験を考慮・評価するメカニズムをもたないとの調査結果もある。

2012年に経済同友会が実施したアンケートでは、直近1年間の新卒者採用の際に66.3%の企業が海外経験を持つ日本人学生を「募集したが採用せず」、または「募集せず」と回答したと説明する。威勢のいい掛け声ばかりで、実務レベルでは「グローバル経験」など採用時には重視していないことが浮き彫りとなった格好だ。太田教授は、こんな疑問を投げかける。

「日本の慣習だからといって、1年に1回しか幹部候補生を採用しない会社に、日本を含めて世界中から優秀な人材が集まるでしょうか?」