悔しさや不安を吹き飛ばし2勝目を挙げたブリクスト、この勝利で数々の夢が実現された(Photo by Chris Trotman/Getty Images)

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 72ホール目。グリーンブライア・クラシックの上がりホールはパー3。一足先にホールアウトして、その18番グリーンを高台から見詰めていたジョナス・ブリクストは、最終組のジョンソン・ワグナーとジミー・ウォーカーがホールインワンしなかったことを確認するやいなや、感極まって泣き出した。
ジョナス・ブリクストが逆転でツアー2勝目!
 「今年は僕にとって決していい年ではないと思っていた。だから……信じられない。これでプレーオフにも出られるし、オーガスタにも行けるし、全英オープンにも出られる?こんなにたくさんの夢がたった1週間のうちに叶うなんて……信じられない」
 ブリクストの興奮は、しばらく覚めやらぬ様子だった。とはいえ、これは初優勝ではなく、彼にとっては2勝目。スウエーデン出身のブリクストはフロリダ州立大学を卒業した08年にプロ転向し、米ツアーには昨年から参戦を開始した。そしてルーキーイヤーの昨季、フォールシリーズのフライズドットコム・オープンで初優勝を挙げた。
 だが、今季の今週までの成績は16試合中、予選通過と予選落ちがちょうど半々という冴えないもので、フェデックスカップランクは139位。昨季優勝者ゆえ、来季シード権を気に病む必要は無かったのだが、125位以内に入れなければ、プレーオフ進出はできない。それに、初優勝を挙げたのはフォールシリーズだったため、今年のマスターズには出場できず、悔しい思いをした。
 だから、悔しさや不安の諸々が今大会の優勝で一気に解決され、夢や希望の諸々も一気に現実となった。「たくさんのドリーム・カム・トゥルーだ」。こんなふうに、うれしいことが一度に到来することがある一方で、辛い日々を噛み締めている人にばかり辛いことが起こり続けるという厳しい現実もある。
 たとえば、ブリクストが見詰める中でホールインワンを達成できず、勝利を逃したワグナーは、過去3勝を挙げた実績はあるものの、今季の成績はブリクストよりさらに悪く、つい最近も6連続予選落ちを喫したばかりだった。が、今週は突然好調になり、初日から首位へ浮上。2位に2打差の単独首位で最終日を迎え、前半はイーブンパーで回る冷静なゴルフを維持していた。が、ひたひたと追い上げてきたブリクストの足音を聞いた途端、続けざまに3つのボギーを叩き、崩れていった。
 最終日の前夜、ワグナーはこう言っていた。「不調が続いていると、ときどき自分が何をしてきた人間であるかを忘れてしまう。だから僕はこの数週間、自分自身にこう言い聞かせてきた。『オマエは米ツアーで3勝も挙げたすごい選手なんだぞ』って。幼いころは、ただただ米ツアー選手になりたかった。その夢が叶い、3勝も挙げたんだから、もはや僕には失うものは何もない。そう思って、明日はとにかく前向きな気持ちで戦うよ」。それでも勝利には、あと一歩のところで手が届かなかった。
 ワグナーの言葉は、そのまま石川遼へのアドバイスにもなりそうな気がした。米ツアーメンバーとして本格参戦を開始したものの、なかなか成績が上がらず、とりわけパットの不調が続いて、来季シード獲得が苦しくなりつつある石川。が、彼は元々、ポジティブな思考の持ち主ゆえ、ワグナーのように自分の実績や功績を忘れてしまうなんてことは、ないのかもしれない。
 けれど、石川とて普通の人間だ。ましてや、まだ若く、プロとしての経験も豊富ではない。日本で何勝したかを忘れることはないにせよ、自分がかつてどれほどポンポンと面白いようにパットを沈めていたか、どれほど怖れを知らぬアグレッシブな攻め方をしていたか、そういう武器になっていた彼ならではの感覚を忘れてしまうことはあるだろう。無意識のうちに「らしさ」を忘れ、自分らしからぬプレーをしてしまうこともあるだろう。
 そんな日々が「辛くない?」と尋ねたら、石川は「意気込んで(米ツアーに)来たけど……」と言って、一瞬、言葉を飲み込んだ。が、数秒後、「今はそういう時期だと思う」と前を向いた。言葉を詰まらせ無言になったあの一瞬、石川が「オレは、あの石川遼なんだぞ」と思うことで、自信とやる気を呼び起こしてくれていたらいいなと願う。
 泣きっ面にハチのときもある。が、「そういう時期」を乗り越えれば、いつかきっと、ワグナーにも石川にも、今日のブリクストのような「たくさんのドリーム・カム・トゥルー」がやってくる。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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