6月23日に行なわれた東京都議選で、自民党は立候補者全員が当選するという大勝利を収めた。この結果は“猪瀬都政”にどのような影響を及ぼすのか?

自民党は昨年の都知事選で猪瀬直樹氏を支援していた。普通に考えれば、民主党が後退して自民党が躍進したことは猪瀬知事にとって追い風だと思える。しかし、現実はそう簡単ではないようだ。

自民党本部関係者が証言する。

「都知事選の際、全国組織である自民党本部は最初から猪瀬さん支持で固まっていました。猪瀬さんは小泉政権時代、強硬に抵抗する道路関係四公団を民営化する改革の中心メンバーとして尽力してくれました。われわれの間には信頼関係があるのです。

さらに、党本部が都知事選前に行なった世論調査でも猪瀬さんの支持率は飛び抜けていた。打算で考えても自民党が猪瀬さんを支援するのは当然なのです。

しかし、自民党の地方組織である東京都連は違いました。猪瀬さんへの支持を断固拒絶し、ギリギリまで独自候補の擁立を模索していました。でも、声をかけた全員から断られ、都連は猪瀬さん支持に渋々応じたんです」

自民党都連がそこまで猪瀬氏を嫌う理由はなんなのか?

「都連というより、巷で“都議会のドン”とも呼ばれている内田茂さん(千代田区)が猪瀬さんを敵視しているんです。彼は過去に東京都議会の議長も務めた都政の大物で、2009年の都議選では民主党の若手候補に敗れたにもかかわらず、都連の幹事長を務め続けてきた権力者です。

彼は公共事業などの予算づけから施工業者選定までを自由自在に差配できる立場にあり、その利権の“おこぼれ”を側近議員たちに与えて勢力を拡大してきました。ところが、07年に内田さんが中心となって手がけた参議院議員宿舎建設事業に対し、副知事に就任したばかりの猪瀬さんが『ムダだから中止しましょう』と石原(慎太郎)知事(当時)に進言し、土壇場でご破算になったのです。


以来、内田さんは明らかに猪瀬さんを恨んでいます。今回の都議選では内田さんも当選しましたし、自民党の議席数が大幅に増えた。おそらく内田さんは、自分に権限が与えられなければ猪瀬都政を全力で妨害すると思いますね」(前出・自民党本部関係者)

しかし、自民党が大幅に議席を増やしたということは、内田氏の影響を受けない新人議員も多く生まれたということじゃないのか?

今回の選挙で当選した、ある都議が話してくれた。

「今回の都議選、自民党から公認をもらえれば、ほぼ確実に当選できる情勢でした。そりゃあ議員になりたい人間なら誰もが公認を欲しいですよ。誰に公認を与えるかを決める権限を持っているのは都連幹事長、つまり内田さんです。新人議員も彼に頭が上がらないと思います。

都政において、知事と議会は対等の立場です。自民党が猪瀬知事と対立関係になれば、国政における“衆参ねじれ”と同じ状態に陥ってしまいます。もちろん、連立を組む公明党の出方にもよりますが、都議会が空転を続ける可能性も否定できません」

都議会が空転すると、具体的にはどのような政策で支障が出るのだろうか?

「オリンピックの東京開催が決まったとしても、その予算の使い方をめぐって対立するかもしれません。天然ガス発電所の建設も、内田さんにメリットがなければ反対しかねないし、東京電力改革も、もし東電が内田さんを味方につければ改革が頓挫するかもしれません……」(前出・都議)

今後の都政は“都議会のドン”に注目する必要がありそうだ。

(取材・文/菅沼慶)