サムスン電子、LG電子など韓国企業への人材流出で、日本のモノづくり産業の先行きが案じられる中、最近では韓国勢だけでなく中国企業による日本人技術者のヘッドハンティングも盛んに行われているという。

 その代表的な企業が、中国の大手家電メーカー、ハイアール(海爾集団)だ。生活に密着した「白物家電」に強く、日本経済新聞がまとめた2012年の世界の「主要商品サービスシェア調査」(7月1日)でも、冷蔵庫と洗濯機部門の2冠に輝いた。

「ハイアールは1984年に中国・青島で創業後、世界100以上の国や地域で事業を展開。日本では2012年にパナソニックの傘下だった三洋電機の白物家電事業を買収し、『AQUA(アクア)』ブランドの洗濯機や冷蔵庫を売っています。新製品の開発にも余念がなく、京都市にある洗濯機R&Dセンターでは、約100人の研究開発陣が“斜めドラム”や洗剤の要らない洗濯機などに次ぐ画期的な製品を生み出そうと知恵を絞っている」(経済誌記者)

 同社は京都のほか、群馬県大泉町に冷蔵庫を開発するためのR&Dセンターも構えているが、こちらは規模拡大のため、埼玉県熊谷市に総工費約80億円をかけて研究開発拠点を移転する。来年秋の稼働時には計300人体制にまで技術者を増やす予定だ。

 そこでハイアールが必要としているのが、旧三洋の開発スタッフに加え、白物家電に精通する国内他メーカーの技術者たち。幸か不幸かシャープやパナソニックなど業績不振に喘ぐメーカーは度重なるリストラで優秀な技術者が余っている状態。まさに人材の宝庫となっている。

「一昔前であれば、韓国や中国企業がヘッドハンティングをするときは1000万円以上の高給を保証しなければ見向きもされませんでしたが、最近は決まった年収よりも働きがいや成果に応じたインセンティブを求めて説明を受けにくる人が多い。それだけ日本企業では自由に仕事ができなかったんでしょうね」(大手人材派遣会社の幹部)

 だが、足元の白物家電市場は1991年の2兆7000億円をピークに縮小傾向が続く。直近の2013年5月の出荷額も前年同月比5.7%減の1792億円にとどまっている(日本電機工業会調べ)。

 先細りの日本市場で、わざわざハイアールが日本人の技術者を採用する理由はなぜか。IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志氏がいう。

「白物家電はパソコンやテレビといった黒物と違って長年の技術ノウハウが必要な製品が多い。しかも、日本では基本性能の向上はもちろん、例えば冷蔵庫でいえば省エネや鮮度保持など消費者が求める改良・改善のレベルは細かくて高い。そんな厳しい日本市場で日本の技術者が生み出した製品ならば、世界のどこへ持っていっても通用する。それだけメイド・イン・ジャパンの評価は衰えていないのです」

 現在、アクアブランドの売上高は348億円で、2014年には外部の人材を活用した新製品の投入で500億円に伸ばす方針だという。果たしてハイアールは日本でも圧倒的な存在感を見せつけることができるのか。

「ダイソンのように絶大なブランド力と価格維持力を持てれば成功するでしょう。でも、日本の消費者は保守的で、特に長年使う白物家電ともなればサポート体制も含めて日本メーカーへの信頼感は強い。よほどオンリーワンのデザインやコストパフォーマンスの高い製品を出さないと厳しいでしょうね」(安蔵氏)

 だが、それも迎え撃つ日本メーカーが最終消費財を作り続けてこその話だ。

「消費者の目に触れる家電製品を作らなくなった時点で、そのブランドは終わります。利益の薄い製品を捨てて、BtoB(企業間取り引き)で稼いだとしても、『○○社はもう家電を作らないんだ……』と人気は落ち、ますます優秀な人材を海外企業に取られることにも繋がりかねません」(安蔵氏)

 事業リストラに明け暮れる日本の家電メーカーには、頭の痛い攻防が続く。