物語の主人公は「怠け者」。史上最高に「動かない」主人公をはじめとする癖のあるキャラクターたちが登場するのが、森見登美彦さんの新作『聖なる怠け者の冒険』です。

 主人公の小和田君は、化学系企業の研究所に勤める若者。週末はとにかくのんびり過ごしたい、冒険よりも小冒険を愛するタイプです。そんな小和田君は、土曜日の朝に目を覚ますと、学校の校庭で椅子に座らされ、動けないように紐で縛られていました。

 目の前に立っているのは、狼のお面をかぶった"ぽんぽこ仮面"。ぽんぽこ仮面は、現代の京都の街で正義の味方とされている怪人。お面に黒いマントと、あやしい格好をしていますが、人助けに勤しむ街の人気者です。そんなぽんぽこ仮面は、自らの後継者として小和田君に目をつけて、縛り付けたのです。

 本作では彼ら以外にも、一風変わった人物たちが登場します。世界でもっとも怠け者の探偵といわれる浦本探偵。探偵事務所の助手・玉川さんはいつも道に迷っており、探偵助手としての能力はあやふやです。充実した休日を過ごす事のみのために、精を出す恩田先輩とその彼女・桃木さん。小和田くんが勤める研究所の所長はスキンヘッドで悪人面。某巨大組織の首領である五代目は、アルパカにそっくり......。

 独特の世界観を楽しむのが森見作品の攻略法。個性的なキャラクターが登場する自由度の高い設定に、狐につままれたような心地にもなります。物語はまともに前に進まないのですが、それが不思議と心地よくなってくることが、本作の妙となっています。

 同書は、朝日新聞夕刊に連載された同名小説を全面改稿した、著者3年ぶりの長編小説。タイトル・主要登場人物は連載時と同じですが、内容は少し違った作品となっています。

 登場人物たちの「充実した土曜日の全貌をめぐる物語でもある」と、森見さんが称する本作。作品世界の理解を深められる、新聞連載時の挿画をまとめた画集『聖なる怠け者の冒険挿絵集』も同時発売中です。



『聖なる怠け者の冒険』
 著者:森見 登美彦
 出版社:朝日新聞出版
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