写真は、今大会5試合で4得点を記録し、最優秀選手賞(MVP)に選ばれたネイマール

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こんな大差でスペインが負けるとは想像していませんでした。ですが、ホームのブラジルの気迫、勢いは国歌斉唱のときからスタジアムを支配していましたね。その雰囲気のままの試合になりました。

ブラジルの、開始早々から激しいプレスをかけて、試合の分かれ目で得点を重ねていったすばらしさが目立ちました。特に前半終了間際のネイマールが挙げた追加点が勝敗を大きく分けたと思います。

スペインの敗因は、ブラジルに余裕を持たせてもらえなかったことです。ブラジルは守ると言うより、ボールを奪いにいく守備でした。そのプレッシャーにはスペインといえどもパスがうまくまわらなくなってしまいました。

スペインはずっと自分たちのリズムが作れなかったと言えるでしょう。これまでの試合では中央のエリアに人を集め、すばやくパスを交換することで、相手を「いなし」ながらプレーしていました。ブラジル戦ではその「いなす」時間すら作らせてもらっていませんでしたね。それくらいブラジルの守備に対する意識の高さ、激しさが際立っていたと思います。

世界のトップクラスの守備は、ボールを持つ相手に対して体を寄せていき、囲い込んでコースを消すだけではありませんでした。そこからさらに激しくボールを奪いにいきます。日本は相手に寄せることはできても、奪いにいけない。これから奪う力を身につけなければならないでしょう。

日本もスペインと同じようにボール保持率を高めるサッカーを指向しています。この試合で見えたのは、日本がボール保持率を上げるためには、待つよりも奪いにいく守備でなければいけないということでした。そして奪った後はフレッジやネイマールのシュートのように技術を集約して、ゴールを奪わなければなりません。

それから日本は常に自分たちのサッカーをしようとしていました。ですが本大会では相手の出方をみて、自分たちの戦い方を変えなければいけないでしょう。イタリアはブラジルを相手に、システムとともに戦い方を柔軟に変更していました。日本も同じように「形に入る」のではなく「ゲームに入る」という応用力が求められています。

ブラジルは前評判が高くなかったのですが、この大会を通じて成長していきました。スペインもこの敗戦で、これまでの自分たちのサッカーに何か積み重ねてくるでしょう。日本もこの大会で得たものを本大会までにどう積み上げるのか。それがここから先の1年で重要になると思います。

それにしても、ブラジルを乗せてしまったのは初戦で対戦した日本だったかもしれませんね(苦笑)。

撮影:岸本勉/PICSPORT (6月30日、コンフェデ杯決勝/ブラジル×スペイン)


小倉隆史

■プロフィール
小倉隆史(おぐら たかふみ)
1973年生まれ、三重県出身。サッカー解説者。92年、名古屋グランパスエイトへ入団。翌年にレンタル移籍したオランダ2部リーグのエクセルシオールで、チーム得点王に輝いた。さらに、アトランタ五輪の代表や、ファルカン監督率いる日本代表にも選ばれた。

現在は、サッカー解説者として、TVを中心に幅広いメディアで活躍中。12年に、日本サッカー協会公認S級コーチライセンスを取得。宝島社から先月、書籍(小倉隆史の「観る眼」が変わるサッカー観戦術)を出版した。