履くだけで足が鍛えられる──。ウォーキングでもランニングシューズでもない新しいジャンルの「トレーニングシューズ」が誕生した。生みの親は、高校時代からトライアスロンを愛するアスリート。ミズノのグローバルフットウェアプロダクト本部で開発生産部先行開発課課長をつとめる尾田貴雄氏(39)である。

 その尾田に“極薄ソールのランニングシューズ”の開発が命じられたのは2009年。

 当時、アップルが発売した超薄型ノートパソコン『MacBook Air』が市場で「知的でかっこいい」と話題になっていた。「極薄」は、人気ファッションのキーワードだったのだ。

 ソールの最大の役割は、歩行やランニングの着地時に足にかかる衝撃を分散させ、足や腰への負担を軽減させること。衝撃吸収材などを詰め込むために、厚みがあって当たり前。薄さを求めるなら、足腰に故障を引き起こしかねない──。誰もが「そんなことは無茶だ」と思う指示だった。

 過去の製品を調べてみると、インソール(中敷き)の前方、指の付け根付近に段差を設けたものを発見した。これで指下に余裕ができ、窮屈感が緩和できるのではないか。早速、ソールを試作し自分で試用してみると、思いのほか快適だった。

「指の動きがのびのびとして自由になり、窮屈感が解消される。しかも重心を前にかけるときに指に力が入り、踏ん張りやすくなる。まるで素足で地面を歩いているような感覚だ。

 さらに試作品を4つ作り、同僚に試してもらった。数日後、同僚が尾田に声をかけてきた。

「このソールを使うと、足が鍛えられる感じがする。まるでスポーツしたような疲労感だ」

 その言葉が尾田の前向きな気持ちをさらに奮い立たせた。これまでシューズは足腰への負担を軽減させようと、様々な衝撃吸収機構や素材をふんだんに使ってきた。それは足本来の機能を損なう弊害も生んでいる。立った姿勢でも、指先が地面から浮いてしまう“浮き指”もその一例だ。

 失いかけた本来の機能を取り戻すためには足を鍛える必要がある。だが、それを目的としたシューズは未だない。

「これは足のトレーニングを目的としたシューズになるのではないか」

 発売の目標期日が迫る中、尾田の仮説を早期に実証する必要があった。そこで試作品を従来の10倍、200足作り、同社の営業担当者らに配り、その効果を探った。すると、使用した多くの人から、足の指先まで平均して体重を支えるようになったという答えが返ってきた。指先が地面をしっかり捉えるようになった証だと尾田は考えた。併せて、衝撃吸収材がほとんどなくても、足腰を痛めたケースはなかった。

 2013年、3月。都内で開催されたウォーキングのイベントで、この『Be』をブース内に展示すると注目の的となった。他社の担当者もブースに訪れ、「ミズノさんらしくない、とんがったシューズですね」と声をかけていった。

■取材・構成/中沢雄二(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年7月5日号