最近、シニアの音楽もの映画が多い気がします。当連載でも以前、引退した高名な音楽家たちの人間模様を描いた「カルテット! 人生のオペラハウス」を取り上げましたが、今回紹介する作品は、夫婦愛や父と息子の確執、恋愛下手の悩みといった、より親しみのあるテーマを、親しみのあるポップやロックにのせて描く、笑顔と涙が盛りだくさんの映画です。見たら元気と勇気をもらえて幸せになれる、おすすめの1本です!


「アンコール!!」
 ロンドンで暮らす、無口で気難しい72歳のアーサー(テレンス・スタンプ)。近所の子どもたちを平気で怒鳴りつける彼は、頑固者として有名ですが、妻のマリオン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)をとても愛しており、彼女にだけは笑顔を見せます。陽気だけれど病弱なマリオンを、常に気遣っているアーサー。

 アーサーとは対照的に、社交的なマリオンは、ロックやポップに挑戦する、一風変わったシニア合唱団“年金ズ”に所属し、そこで歌うことを楽しんでいます。そんな中、“年金ズ”が国際コンクールのオーディションに出場することに。マリオンは大喜びで練習に励みますが、突然倒れて病院に運ばれます。ガンが再発していたのです。

 ショックを受けたアーサーは、痛みを分かち合えるはずの一人息子ジェームズ(クリストファー・エクルストン)とも素直に向き合うことができず、関係はぎくしゃくするばかり。一方、マリオンは病を抱えながらも、心配するアーサーを説得して、“年金ズ”の練習に参加しようとします。音楽教師のエリザベス(ジェマ・アータートン)は、そんなマリオンに予選でのソロパートを任せます。


 ところが、マリオンは体調が悪くなり、練習に行けなくなってしまいます。彼女はアーサーに、代わりに練習の様子を見てくるように頼みます。渋々出かけて行ったアーサーは、ロックやメタル、セックスについての歌を歌う合唱団にあきれ返りますが、エリザベスや個性派だらけの団員との出会いは、やがてアーサーの心の壁を崩していきます。


 一言で言うと、とにかくアーサーは感じの悪い老人です(笑)。息子に優しく接することもなく、歌を楽しんでいるシニアたちに対しても、バカにした態度で上から目線。だけど、最愛の妻マリオンにだけは、ほかの人には絶対に見せないラブリーなモード全開! マリオンもアーサーを深く愛していて、彼が気難しい自分を反省してションボリしていても、一緒にいられて幸せだと笑顔でアーサーを包み込みます。アーサーとマリオンの夫婦愛に、とても心が温かくなりました。


 息子との関係も修復したいと思っているアーサー。そんな彼は、若くて美人なのに恋愛がうまくいかないエリザベスの悩みを聞いたり、彼女から、いかに自分はマリオンから愛されているか諭されたりするうちに、徐々に変わっていきます。72歳の男性に「成長する」という言い方はおかしいかもしれませんが、どんなに頑固な男性だろうと、愛情には勝てないんだなぁ、と思いました。

 本作は、脚本・監督を務めたポール・アンドリュー・ウィリアムズの家族の体験を基に描かれたそうです。「人は何歳になっても、何かによって劇的に変わる」と語るウィリアムズ監督。主人公アーサーはいつもしかめっ面ですが、変わっていく彼はとてもキュート。アーサーを演じたのは、かつて“世界で最も美しい男”とたたえられたテレンス・スタンプ。カリスマ性のある彼は、ごく普通の“老人”を演じることはあまりなかったのですが、本作ではスタンプの新たな魅力が見られます。

 そして何より、この映画は、音楽が心を打ちます。特にマリオンが歌う、シンディ・ローパーの「トゥルー・カラーズ」はとても感動的でした。ほかにも、モーターヘッドの「エース・オブ・スペーズ」、スティーヴィー・ワンダーの「サンシャイン」、ビリー・ジョエルやルーファス&チャカ・カーンなど、“年金ズ”と一緒に歌って踊りたくなるヒット曲が満載! さらに終盤、心が震える歌が登場しますが、それは見てのお楽しみ……。セリーヌ・ディオンが本作のために書き下ろした主題歌「Unfinished Songs」にもグッときますよ。

「“世界で最も美しい男”テレンス・スタンプの出演作」DVD紹介

「コレクター」


 「ローマの休日」の名匠ウィリアム・ワイラー監督が描く衝撃のサイコ・サスペンス。蝶の収集を唯一の趣味とする内気な銀行員フレディ(テレンス・スタンプ)は、ある日大金を手にしたことから、一軒家を買い取って、若く美しい女子大生ミランダ(サマンサ・エッガー)を誘拐する。フレディは蝶を収集するように、ミランダを監禁して、彼女に異常な愛情を注ぐが……。スタンプは、本作でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した。

1965年/アメリカ/テレンス・スタンプ、サマンサ・エッガー
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/DVD1480円/発売中
「プリシラ」


 アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した、80年代のディスコ・ミュージックが満載の笑いと涙の傑作エンターテインメント。ベルナデット(テレンス・スタンプ)、ミッチ(ヒューゴ・ウィービング)、フェリシア(ガイ・ピアース)は、世代も生き方も違うドラァグ・クイーン(女装のゲイ)。3人は、オーストラリアの砂漠の真ん中にあるリゾートのショーに出演するために、“プリシラ号”というバスで旅に出るが、それぞれヘビーな問題を抱えていた。スタンプの女装が見どころ。

1994年/オーストラリア・イギリス/テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィービング、ガイ・ピアース
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン/Blu-ray2500円、DVD3990円/発売中