アベノミクスで景気回復といわれているが、上向いている実感を持たない人が大半だ(59.1%)。今夏のボーナス支給予定がある人は69.9%にのぼるが、支給見込額を聞いたところ「昨年と変わらない」(37.3%)人がもっとも多い。上向いている実感が得られないから、消費マインドも冷え込んだままだ。10人に1人がボーナスを全額貯金し、購入するものがあっても生活に結びついたものが多数だという(楽天リサーチ調べ)。

 高級時計など高額商品が売れたとはいえ、節約マインドは変わらず健在のこの夏、家飲み向けのヒット商品がある。「キリン 澄みきり」が5月14日発売からわずか2週間あまりで125万ケース(大びん換算)出荷と、年間目標の約3割に達する勢いをみせているのだ。

 キリンが「120年培ってきた技術と経験を注ぎ込んだ」と胸を張る新商品にふさわしいヒットをみせている「澄みきり」だが、分類としては新ジャンルの商品だ。そもそもこのジャンルが立ち上がった頃は、ビールや発泡酒よりも安い代替品で質よりも価格重視の分野だった。ところが、今や価格だけが魅力の商品ではなくなっているらしい。

 慶應義塾大学名誉教授で日本マーケティング協会理事長の嶋口充輝氏は、新ジャンルはもはや新しい地位を獲得しているという。

「ビールの代替品だった新ジャンルも、若い人を中心に、今では代替品というよりも多様性のひとつとして好まれているといってよいでしょう」

 新ジャンルが初めて登場した約10年前は、景気が冷え込み節約ムードが強まる一方だった。そこへビールや発泡酒の代替品としてあらわれ、消費者に急速に受け入れられた。その後、各ビールメーカーが開発競争を繰り広げ、この分野の商品が充実するに伴い今や独自の地位が築かれた。結果として、このタイミングで新発売された「キリン 澄みきり」のヒットが示すように、新カテゴリは完全に独立したものになったようだ。

「これまでにも、多様性のひとつとして代替品が新しい商品へ脱皮した例としては、バターの代替品だったマーガリンがありますね。マーガリンの場合、むしろ今では健康志向にあう植物性のものだと人気があるくらいです」(前出・嶋口充輝氏)

 食品の歴史を振り返れば、高価だったバターの代用に19世紀末に発明されたマーガリンと同じく、代替品からスタートして独立したものはいくつもある。江戸時代に考案された”がんもどき”も精進料理で肉の代わりに使用されたが、今では肉の代わりに使う人はいないだろう。高級品であるカニ肉の代用品として今から約40年前に発明されたカニ風味かまぼこは、日本だけでなく世界中でカニ肉とは別の「カニかま」として人気を集めている。

 ビール類の新ジャンルにも、同様の変化が訪れている。それは、アンケート調査にあらわれたカテゴリの受け止め方の変化にはっきりと出ている。

 調査によれば、新ジャンルの魅力について美味しさよりも価格設定の方が上回る(69.0%)と答えながら、メーカーが努力している印象をもっている(88.0%)。そして、まだまだ進化して欲しい(81.0%)カテゴリだと思い、新ジャンルの新商品発売を楽しみにしている(66.0%)のだ(株式会社GAIN調べ)。価格優先と口先では言いながら、品質の向上を気にするのは、もう代わりの品とは考えていない証拠に他ならない。

「ひと昔前には、ノンアルコールビールを飲もうという人はいませんでした。でも、アルコールなしでもビールのような美味しさを楽しみたい機運が盛り上がったところへ、技術をつぎ込んだ美味しい商品が登場して大きな変革をもたらしました。新ジャンルも、ハイレベルな技術を各社が競い合って良いものが出てきているので、新しいマーケットがつくられていくのでしょう」(前出・嶋口充輝氏)

「キリン 澄みきり」のヒットをきっかけに、新ジャンルの名称も、そろそろ変わる時期に来ているのかもしれない。