日本が2年程度で脱デフレを果たすための方策
黒田日銀体制スタートで円安・株高基調は続くだろう。しかし、米国とは異なり日本は株価が上昇しても個人消費や企業の設備投資の上向きにつながりにくい。日本が2年程度で脱デフレを果たすためには、アベノミクスの第2、第3の矢である財政政策と成長戦略にも期待せざるをえない。


大胆な金融緩和を掲げる黒田東彦日銀総裁体制がスタートした。円安・株高基調が続くのは間違いない。このままマーケット主導の脱デフレ、景気拡大は可能だろうか。

黒田日銀が日銀資産を無制限に増やす政策に踏み切れば、マーケットは「量的緩和=通貨安」という論理に突き動かされ、円安がさらに進む。「円安は日本株高」という、もうひとつの見方から日本株買いが同時進行する。

円安基調が今後2年続くと仮定しよう。これまでの「15年デフレ」の間に2度、2年程度の円安期があったから、2年という期間は決して絵空事ではない。しかも、黒田総裁も岩田規久男副総裁も国会では2%インフレ目標を2年程度で達成すると約束した。円安は輸入原材料価格を押し上げる。最近でも、「アベノミクス」による円安を理由に鉄鋼、石油化学、繊維など産業素材、さらにトイレ紙やティッシュ紙、小麦粉などでも値上げの動きが広がっている。

問題は、企業段階の値上げはCPI(消費者物価指数)上昇に結びつかないことだ。2004年11月から07年夏までの円安局面では企業の製品値上げが広がったが、代表的なインフレ指数であるエネルギーと食料品を除くコアコアCPIは下がり続けた。小売り段階まで値上げが浸透しなかったのである。他方で、円安に伴う株高は企業の資金調達コストを押し下げて設備投資を増やす。また、個人投資家の気分を高揚させ、個人消費を刺激するにちがいないと思いたい。確かにデパートでは高額商品が売れだしたと聞く。だが、円安を受けて07年6月に日経平均株価が1万8000円台まで上昇し続けた期間も個人消費は低迷を続けたし、民間設備投資の回復は1年弱にとどまった。80年代から現在までの長期間を見ても、日本の個人消費と民間設備投資動向は株価との相関性がきわめて薄い。

日本と対照的なのが米国である。下のグラフを見れば、一目瞭然。株式保有者の数が野球ファンの数よりも多いだけあって、株価が上がれば個人消費も上向く。民間設備投資となると、株価とほぼ同じ波動だ。理由は、米国の企業資金調達が株式市場中心であるため。株式市場が活気づけば、企業は増資やIPO(新規株式公開)で低コストの資本を用意し、設備投資に振り向ける。しかもシェールガス革命でエネルギーコストの低下という追い風も吹いている。





FRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長が量的緩和による株価の上昇を重視するのは、実体経済への波及効果の大きさを意識しているからなのだ。バーナンキ議長は念には念を入れて、名目金利がインフレ率を下回る実質ベースでのマイナス金利政策をとっている。特に企業の投資行動に影響する長期金利を大幅に下げるために、量的緩和政策を通じて長期国債を重点的に買い上げ、長期の実質金利をマイナス水準にまで押し下げている。投資家は国債など手堅い金融商品で余資を運用するより上昇が見込める株式に投資するので、株価上昇に弾みがつく。

この米国モデルは、日本に当てはまるとは限らない。下のグラフを上のグラフと見比べてみればいい。日本は個人消費も設備投資も株価とはまったく無縁であるかのように、低水準で推移し続けている。15年デフレ、あるいはバブル崩壊後の20数年間もの空白と株価の低迷で、4500万人の個人投資家の大半は株価が多少上がっても消費を増やす行動には出ないのだろう。

こう見ると、日本が2年程度で脱デフレを果たすためには、アベノミクスの第2、第3の矢である財政政策と成長戦略にも期待せざるをえない。成長戦略のコアは規制緩和だが、効果は長期的で、短期的にはむしろ混乱要因になりうる。財政面では、金融緩和と合わせた財政出動の効果は高いが、財源上の制約から公共投資の増額規模は限られる。ならば、デフレ効果が大きい消費増税の実施を延期し、財政・金融の両輪による脱デフレの勢いを持続させることだ。安倍首相の決断が待たれるところだ。

田村秀男(たむら・ひでお)
産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員

日本経済新聞ワシントン特派員、米アジア財団上級フェロー、日経香港支局長、編集委員を経て現職。『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『円の未来』(光文社)、『人民元が基軸通貨になる日』(PHP研究所)、『財務省「オオカミ少年論」』(産経新聞出版)など著書多数。今、政府・日銀の金融経済政策運営に対して数多くの有益な提言を行なう気鋭のジャーナリストとして注目を集めている。



この記事は「WEBネットマネー2013年6月号」に掲載されたものです。