株式会社東海ヒット

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理系のシゴトバ

株式会社東海ヒット

今回の訪問先 【東海ヒット 開発課】 
科学の発展とともに医療技術は飛躍的に進歩し、治療成績も向上しています。その一方で、どんな科学をもってしても治療が困難である疾患も存在します。そんな治療困難な疾患に対応するため、注目を集めているのが再生医療です。2012年に京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで話題となったiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)は、再生医療を実現するものとして期待が高まっています。そしてこのような最先端の研究に欠かせないのが、理化学機器です。数ある理化学機器の中で、東海ヒットが開発・製造するのは、顕微鏡用培養装置および顕微鏡ステージ自動温度制御システム(サーモプレート)です。同社の創業は1994年。同社の代表取締役を務める土屋秀治社長が「世の中の人に使ってもらえるモノづくりをしたい」という思いから起業した会社です。設立当初は顕微鏡用のガラスヒーターの開発、製造を行っていましたが、2000年ごろより、細胞を生きたまま観察できる培養装置の開発に他社に先駆けて着手。現在ではその分野の専門メーカーとして、最先端分野の研究開発を支援しています。今回はニッチな分野ながらも世界をけん引する東海ヒット 開発課のシゴトバを訪れました。

 

■ 再生医療の研究に欠かせない培養装置を開発

東海ヒットがあるのは、静岡県富士宮市。市の名前からもわかるように、富士山の西南麓に広がる市域の半分が富士箱根伊豆国立公園に指定されています。そして雄大な富士山が望める位置に東海ヒットの本社社屋はありました。ほとんどの社員が自動車通勤をしているそうです。

 

開発課を紹介してくれたのは、2年ぐらい前まで自ら培養装置やサーモプレートの開発を手がけていた土屋社長と、現在の開発メンバーを率いる開発課主任の斉(さい)ツォンさんです。
「ちょっと特徴的な社屋でしょう」と斉さん。
写真は執務エリアです。社屋は天井部分を見ればわかるように木造建築。屋根には太陽光発電装置が設置されているなど、自然環境に配慮したつくりとなっています。屋根の形状のそりは、「富士山の稜線(りょうせん)をイメージしている」(土屋社長)のだそうです。

 

東海ヒットの主力製品の一つ、顕微鏡用培養装置「WSKMシリーズ」です。
「これはiPS細胞やES細胞などのメカニズムの解明に不可欠な、複数の細胞を生きたまま長時間観察するための装置です。培養装置内の温度や湿度、二酸化炭素を専用のコントローラーで繊細に管理できるので、継続してリアルタイムな観察ができるんです。しかし『生きたまま観察』できるようにするのが、非常に難しいんです」(土屋社長)
なぜなら、生きている細胞は非常に環境に影響されやすく、温度や湿度、二酸化炭素濃度が少し変わっただけでも、死んでしまうことがあるからだそうです。同社では、iPS細胞やES細胞などの最先端研究の発展を支えるため、より容易にたくさんの生きた細胞が観察できる装置作りに取り組んでいます。

 

写真は執務エリアの一角に設置されている3次元CADで、仕様を基に培養装置を設計しているところです。
「現在、開発課には10人が所属しており、1人1台の3次元CADが用意されているんです」(斉さん)
開発課のメンバーが主に携わるのは、特注品の開発と新製品開発です。
「特注品とは、大学や研究所などそのお客さまのためだけに開発する製品のことです。開発者はお客さまの要件を聞き、仕様を詰めるところから携わります。仕様が固まったら図面を描き、製造、評価試験を行います。実際にお客さまに試してもらい改良点があれば改良します。お客さまからOKを頂き、最後に出荷前検査を実施して納品へと至ります。特注品に関してはこれら仕様を詰めるところから納品に至るすべての工程に、開発者は携わるんです」(土屋社長)
実は2013年3月までは、製作工程は専門の部署が担当していたとのこと。
「このような体制にしているのは、より早くお客さまのもとに製品を届けるため。課をまたぐことがなくなったので、製作期間はこれまでの約3分の2になりました」(斉さん)

 

お客さまからのニーズを先読みした新製品の開発にも積極的に取り組んでいます。新製品の打ち合わせには、土屋社長(写真左)も同席するそうです
「お客さまの声や顕微鏡メーカーの動向などから、今後どのような機能を持った培養装置が求められていくのかを検討し、新製品を企画します。とにかくお客さまの期待以上の品質の良いモノづくりをするというのが、当社の開発姿勢。そのため社長からは厳しい質問が飛ぶこともあります。社内での打ち合わせだけではなく、顕微鏡メーカーの開発担当者やお客さまなど、外部の方との打ち合わせも頻繁にあります」(斉さん:写真右)

 

本社1階には部品を加工するための工作機械(マシニングセンタ)が複数台並んでいました。
「従業員数50人という規模で、しかも加工メーカーでもないのにこれだけの台数の工作機械を抱えている会社は、そうそうないのでは(笑)。技術者にとっては本当にぜいたくな環境だと思いますよ」(土屋社長)
「ここで自分が設計したデータを基に部品を加工します。先述したように開発者が製造に携わるようになってまだ数カ月。今はまだ製造課長にノウハウを教えてもらいながら操作しています。自分で手がけることで、製造しやすい設計を今まで以上に心がけるようになりました」(斉さん)

 

組み立ても行います。写真は試作したコントローラーの電圧を測っているところ。コントローラーは培養装置の温度や湿度、二酸化炭素濃度を管理するツールです。
「経験が増えるとだんだん任される範囲が増え、機械設計はもちろん、電気やソフトウェアの設計まで担当することになります」(斉さん)

 

評価試験も行います。写真は出荷前のサーモプレートの温度の上がり具合を検査(温度分布検査)しているところです。右手前のサーモカメラでガラスプレートの表面を撮影、その結果が左手にあるPCに映し出されています。
「コントローラーの性能チェックやチューニングなど、出荷前にはさまざまな検査を行います」(斉さん)
部屋の温度は実際に同社製品が使われる環境と同じ25度に保たれているそうです。

 

 


■ ハタラクヒト さまざまなことに興味を持ちエネルギッシュに取り組める人

斉さん(写真右)に「東海ヒット 開発部」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてお話をうかがいました。

 

斉さんは大学工学部の出身。大学時代は航空関係の学科に所属し、整備を中心に飛行機全般に関することを学んでいたそうです。新卒後は自動車部品メーカーに就職。3年間シートの開発に従事した後、2009年、東海ヒットに転職しました。
「シートの開発とはいえ、自分で手を動かすのではなく、プロジェクト管理をサポートするというのが主な仕事でした。組織も大きく、自分のできる幅も限られていました。自分の手でモノを作りたい、もっと幅広い業務に携わりたいという思いから、転職を決めました」

 

東海ヒットは前職とはまったくの異分野。しかも前職ではほとんどモノづくりを経験してこなかった斉さん。
「モノづくりの仕事はゼロからのスタートといっても過言ではありません。比較的小さな部品の設計を担当することから始め、徐々に知識を身につけていきました。お客さまの多くは大学の先生です。わからないことがあっても質問すると、丁寧に教えてくれるんです。もちろん、自分でも専門誌などを読んだりするなど、勉強しました。大事なのは意欲旺盛に何事にもチャレンジする姿勢だと思います」

 

また土屋社長も斉さんの言葉を次のように後押ししてくれました。
「独立する前、私は医療機器メーカーに勤めていましたが、担当していたのは生産機械の設計です。培養装置や医療、細胞などの分野に関する知識があったわけではありません。それでもこの分野に飛び込み、今では日本国内だけではなく、海外にまでお客さまを獲得できるようなモノづくりができたのは、いろいろなものに興味を持って能動的に取り組んできたからです。そしてもうひとつが、いいモノを作りたいという思いです。だから出身専攻は特に関係ありません。開発課のメンバーの出身専攻は機械、電気、物理、生物、情報などとさまざまです。それよりも重視しているのは、好奇心旺盛なことと自ら進んで取り組むという意欲です」

 

培養装置の開発に携わる面白さについて、斉さんは次のように答えてくれました。
「いろいろありますが、なんといってもバイオや再生医療、創薬などの最先端の分野の研究に貢献できることです。今話題の再生医療の実現はまだまだ先ですが、私たちがよりよい装置を提供することで、研究のスピードを速めることができるかもしれません。しかも開発者が図面に描くところから出荷されるまでのすべてを担当できるのです。こんなにワクワクできる仕事はないと思います」

 

最後に東海ヒットという会社の文化について斉さんに答えてもらいました。
「若くてエネルギッシュな会社です。頑張れば、いろんなチャレンジができます。この4月から特注品の開発工程が変わりましたが、その提案をしたのはそれよりもほんの数カ月前。自分が納得できる仕事環境を自らの手でつくることができるんです。技術環境も充実していますし、エンジニア冥利につきるシゴトバです」

 

■ 窓からは世界遺産、富士山が見える!

打ち合わせ室兼休憩室です。全面ガラス張りなので、開放感あふれるつくりとなっています。
「お昼休みなど、たまにここでのんびりとくつろいでいます」(斉さん)

 

ミーティングルームの窓からは富士山がくっきりと見えます。
「お客さまの中には海外の方もたくさんいます。やはり日本にきたら富士山は見たいもの。窓から見える富士山はお客さまにも好評なんです」(土屋社長)

 


■ 東海ヒットにまつわる3つの数字

顕微鏡用培養装置やサーモプレートの専門メーカーとして、再生医療やバイオ、創薬など最先端分野の研究開発を支援している東海ヒット。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 80カ国以上
2. ∞
3. 33

 

 

前回(Vol.84 オートリブ株式会社)の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美 撮影/早坂卓也