「喝!」張本勲のトロント・ブルージェイズ川崎宗則に対する発言に、ダルビッシュが噛みついたことが話題になっている。
日曜朝、『サンデーモーニング』の張本勲とゲストの「喝」「あっぱれ」を見るともなしに見ながら朝食を摂っている人は多いと思う。
最近のこのコーナーはかなり不愉快なものになりつつある。

このコーナーは長らく親分こと大沢啓二と張本勲が担当していた。
当時から張本は、選手に対して厳しい言葉を発していた。しかし、そうしたとげのある言葉を、大沢親分はやんわりといなして、丸く収めていた。
べらんめえ調で、喧嘩早そうな大沢親分だが、選手としては二流でコーチからたたき上げで指導者になった苦労人だ。また江戸っ子らしく野暮は言わない人柄だった。とかく舌鋒が鋭い張本と、粋人大沢親分は名コンビだったのだ。

しかし2010年に大沢親分が急逝し、以後、張本とゲストが担当するようになると、張本の発言が耳障りになってきた。失敗に対して容赦なく「喝」を浴びせかける。とりわけMLBに対して評価が辛口で、事あるごとに「NPBの方が優秀だ」と繰り返す。また、野球だけでなく、他のスポーツにもしたり顔で発言するのも鬱陶しくなっていた。ゲストには遠慮があるから、それをたしなめることができない。実質的に張本の独壇場になっていた。

ここ何週間か、張本は川崎宗則をやり玉に挙げることが多かった。川崎が片言の英語でチームの人気者になると「だめだよ、英語くらいちゃんと話さないと」と批判する。
とにかく「目障り」だと思っていることがありありだった。
先週は、川崎について「野球選手として見られてないんじゃないの。マスコットボーイみたい」とコメント。メジャーで初ホームランを打ったことも、「まぐれでしょ。6月で1号では」、打率.229についても「2割2分くらいだったら野球選手じゃないよ」と言った。

実にいやらしい発言だと思っていたが、これにダルビッシュが敏感に反応した。
「いや、かなりチームに必要とされてますよ!」
「あのコーナーは何のためにあるのかな?けなすため?わからん」
と、ツイートした。

日本からMLBに行った選手たちは、言葉や文化の壁を乗り越えて、厳しい競争環境で戦っている「同志」という連帯感を持っている。
苦労してチームに溶け込もうとしている川崎を小ばかにした発言に、ダルは自分自身を侮辱されたような気がしたのだろう。

率直に言って、川崎宗則はこれからどうするのかな、という気がしないでもない。ソフトバンクの花形内野手という立場を捨てて海を渡ったのはいいが、1年目も2年目も守備の人。このままフェードアウトするのは惜しいとは思っていた。
しかし、スターの座を捨ててMLBに挑戦した川崎の勇気を、大先輩とはいえ赤の他人が嘲笑するのは失礼だ。「マスコットボーイ」とはあまりにも酷い。しかもその発言は、全国ネットのTVでされたのだ。

張本勲自身、在日韓国人として厳しい差別にさらされながら大記録を打ち立てたのだ。アウェイの辛さは十分に知っているのではないか。また、韓国プロ野球=KBOの設立に奔走し、野球の国際化にも一役買ったはずだ。
なぜ、MLBに対してここまで目くじらを立てるのかがわからない。一説には張本は巨人、讀賣人脈につらなっており、これ以上の人材流出には反対しているからだ、とも言われる。
しかし、それ以前に、MLBに対する嫌悪感は彼の根底にあるように思える。

野村克也もそうだが、古い世代の大選手にとって、NPBからMLBに行く選手たちは「恩知らず」に映るのだろう。スター選手は、有名になったらチーム、プロ野球に対して「恩返し」をすべきだ。それをせずに海外に飛び出すとは何たることだ。張本や野村には日本のプロ野球を侮辱する行為のように映っているのかもしれない。

もう一つ感じるのは、現役選手に対する上から目線である。引退したとはいえ、自分たちは先輩だ。現役選手など小僧っ子にすぎない。馬鹿なことをしおって、という見下した感じがありありとする。彼らも先輩指導者にそのように扱われてきたのだから、無理はないとは思うが、プレイヤーファーストからは程遠い姿勢だ。

せんじ詰めれば、才能のある野球選手たちは、こうした日本プロ野球の「鬱陶しさ」が嫌で、海外に出ていくのだ。張本が「喝」を繰り返せば繰り返すほど、有為の人材は海外へ目を向けるだろう。
時代は変わっている。元大選手たちは、いつまでも繰り言を言うのをやめるべきだと思う。

ダルビッシュの怒りはおさまりそうにない。「メジャーのOBで(昔はすごかったと自慢するような)そういう人たちはいないなぁ」とも呟いた。
東映、日拓上がりの張本は、ダルビッシュの直系の先輩にあたるが、そんなことは気にも留めていないだろう。
おそらくは、矛を収めなければならないのは張本勲の方だ。ファンは張本の大して面白くもない「喝」よりも、ダルや川崎などのパフォーマンスを支持するはずだ。
もうそろそろこのコーナー、潮時なのではないか。